協会からの使者 登場人物 神田川(かんだがわ) スナイパー。フェリー内で暗殺を目論む。 麻里野(まりの) 神田川の子分。 等々力(とどろき) 旅客船乗組員。 加賀美(かがみ) 日本旅客船協会職員。 粟飯原(あいはら) 旅客船乗組員。 舞台上、等々力が上手より歩いて来る。 等々力 おい、粟飯原ァ! 粟飯原 へいへ〜い。何でやんすか? 粟飯原、気だるげに登場。 等々力 何でやんすか?じゃねえだろ!何だここは!? 粟飯原 ?フェリーの上でしょ? 等々力 違う!何でこんなに汚れてんのかって聞いてんだ!ちゃんと掃除やったのか? 粟飯原 はい?やりましたよ。 等々力 嘘を吐けぇ!この手すりを見てみろ! 等々力、人差し指を這わせる(意地悪な姑の如く)。 等々力 まだこんなに塩が残ってるじゃないか! 粟飯原 はあ!?船の上なんだから、当然でしょ。 等々力 馬鹿者ぉ! 粟飯原 ! 等々力 そんなことだから、お前はいかんのだ。日々是精進。毎日の積み重ねが、やがてお前の財産となるのだ。細かい所にも目が行きとどくようにならねば、将来はないぞ。 粟飯原 毎日毎日、細かいことばっかり言ってる誰かさんは、なかなか昇進できないですけどね〜。 等々力 何か言ったか? 粟飯原 いえ、何も。 等々力 そうか。ならいいのだが。 粟飯原 にしても、何でまた今日に限ってそんなこと言うんすか? 等々力 何を言うか。俺はいつも真面目じゃないか。 粟飯原 ……嘘だ。 等々力 な、何が嘘か!? 粟飯原 来るからでしょ?今日、日本旅客船協会から、お偉いさんが来るからでしょ? 等々力 な、何をバカなことをいってるのかなぁ?この子は。 粟飯原 図星か。別に船を視察しに来るわけじゃなし、普通にしてりゃいいでしょうよ。 等々力 ば、馬鹿者ぉ!怒られるのは俺なんだぞ! 粟飯原 はい、本音が出たー。 等々力 き、貴様、上司をバカにしていいと思ってんのか! 粟飯原 そんなことないっすー。俺、等々力さんを尊敬して敬愛して愛してるっすー。もう、何つーかぁ、L・O・V・E、ラヴっすー。 等々力 そ、そうか?照れるなぁ。 粟飯原 ……。それはそうと、本当に俺らが出演するんすか?その、何だっけ?……ひやりはっと、関連VTR? 等々力 ああ。なんでも、よりリアルにするため、本当の乗組員を使って、船の上で撮りたいらしくてな。今回は打ち合わせだけだが、先方が急にきっちり打ち合わせやりたいって言いだしたんだよ。ま、運航に穴は空けられないから、お客さんがいてやりにくいんだがな。 粟飯原 はあ、まあ、それはいいんすけど、何で俺らなんすか?つーか、それ以前に、何で東京とかのでっかい船じゃなくて、長崎のこのボロいフェリーで撮るんすか? 等々力 新しくてでかくて綺麗な船が事故に遭うようなVTRなんざ、作っちゃまずいだろ、色々と。造船会社からクレーム来ても面倒だし。 粟飯原 はあ、なるほど。でも、なんで長崎なんすか? 等々力 ああ、今度災害防止大会みたいなのが長崎であるらしくてな、その関係らしいぞ。ま、俺らみたいな末端にゃ関係ねえ話だけど。 粟飯原 それで俺らにしわ寄せがくるのも、ムカつく話っすね。 等々力 まあそう言うな。 粟飯原 でも、何でその末端の中で、俺らが選ばれたんすか? 等々力 くじ引きだ。 粟飯原 あー、はいはい。 二人、退場。その後、麻里野・神田川登場。 神田川 おい、マリオ! 麻里野 アニキ!マリオじゃないっす!マリノっす!いい加減覚えて下さいよ! 神田川 マリノス!?貴様、横浜ファンかぁ!再三、スナイパーはホークスファンしか認めないと言ってるだろう! 麻里野 そんなこと言ってないじゃないすか!そもそも、横浜マリノスファンだからと言って、横浜ベイスターズファンとは限らないでしょ! 神田川 ふん、信じられんな。 麻里野 信じて下さい!オレ、ホークスファンっす!ハリーホーク大好きっす!秋山新監督にマジ期待してるっす! 神田川 マジだな? 麻里野 マジっす! 神田川 じゃあ……特選・ホークスク〜イズ!ダダン! 麻里野 ! 神田川 新監督・秋山幸二の生年月日は!? 麻里野 1962年4月6日! 神田川 2005年沢村賞を獲得したホークス投手は!? 麻里野 杉内俊哉! 神田川 現在27歳、身長179センチ、体重74キロ、鹿児島出身、右投げ左打ちのホークス内野手は!? 麻里野 川ア宗則! 神田川 『さき』の漢字、間違ってないだろうな!? 麻里野 『さき』は山、大きい、可能の可ではなく、山、立つ、可能の可! 神田川 背番号94と言えば!? 麻里野 倉野信次2軍コーチ補佐(投手担当)! 間。 神田川 詳しすぎて逆に怪しい! 麻里野 えぇっ!? 神田川 ……冗談だ。今から仕事だ、気を引き締めろよ。 麻里野 うっす!……でも、 神田川 でも、何だ? 麻里野 ここ、フェリーの上っすよ。逃げ場はどこにもないっすよ。こんなとこで人なんか殺して、大丈夫なんすか? 神田川 マリオぉ! 麻里野 マリノぉっす! 神田川 俺達の職業は何だ!?言ってみろ! 麻里野 スナイパーっす!どんな殺しの依頼でも完璧にこなす、完全無欠のスナイパーっす! 神田川 (凄くいい顔で)だったら、弱音吐いちゃぁ、いけねえよな? 麻里野 あ、アニキぃ!感動したっす!どこまでもついていくっす! 神田川 ふっ、わかればいいんだ、わかれば。だが、お前の不安ももっともだな。だが、だからこそ、やるんだ。 麻里野 え? 神田川 逃げ場はどこにもない。だからこそ、客にも乗船員にも隙が生まれる。 麻里野 隙、っすか? 神田川 ああ。逃げ場がないという事実が、この船に乗っている人間に安心を与える。その安心が隙となり、オレ達が仕事をやりやすい状況を作り出す。その証拠に、客席に行って見てみろ。客は安心しきって寝てるぞ。席を離れる客も、不用心に自分の荷物を置いたままだ。そんな船上での暗殺、簡単だと思わないか? 麻里野 た、確かに。 神田川 それに、逃げ場がないからこそ、逃げることができたら、オレ達に殺人の容疑はかからない。違うか? 麻里野 な、なるほど。 神田川 さ、行くぞ。さっさと仕事を終わらせるぞ。 麻里野 で、でもアニキ……。 神田川 何だ?まだ何か不安があるのか? 麻里野 話を聞いただけなら、暗殺は簡単そうに見えるけど、本当にそううまくいくんすか? 神田川 ふ、心配症だなマリオは。 麻里野 マリノっす。 神田川 お前がそう言うと思って、オレは既にその証拠を持っている。 麻里野 証拠? 神田川 これを見てみろ! 神田川、懐からパンストを取り出す。 麻里野 そ、そそそそれは!? 神田川 そう、パンティストッキングだ! 麻里野 ぱ、パンティストッキング!?お笑い芸人などが顔に装着し、それを無理矢理引っ張り、変顔を生み出すことにより笑いを生み出すあのアイテムか!?女性の足先から腰までを完全網羅し、脚を綺麗に、細く見せ、何とも言えないエロチシズムを醸し出すあのアイテムか!? 神田川 そう、その、パンティストッキングだ! 麻里野 アニキ、それを一体どこで!?ま、まさか、買ったんですか!? 神田川 そうそう。この船に乗る前に、近くのデパートの下着屋さんで、店員のお姉さんに秋の新作を選んでもらって。ってバカァ! 神田川、パンストを丸めて麻里野に投げつける。 麻里野 痛っ! 神田川 このオレがそんなことできるわけねえだろ!あ!? 麻里野 う、うっす!で、できねぇっす!硬派なアニキにそんなことはできねぇっす! 神田川 おい、マリオ! 麻里野 マリノっす。 神田川 オレは誰だ?言ってみろ。 麻里野 うっす。伝説の天才スナイパー神田川っす。殺した男は数知れず、暗殺成功率九割台。泣かせた女も数知れず、夜の打率は九割台。結婚五回・離婚も五回。いわゆるバツ5子持ちの四十歳。子供は八人子だくさん。養育費を稼ぐため、日夜暗殺稼業絶賛フル稼働中っす!さらには、 神田川 だああぁぁ!もういいもういい!それ以上個人情報を喋るな!とにかく、だ。このパンティストッキングは、オレが買ったものじゃねえ。 麻里野 じゃあ、どうしたんすか? 神田川 盗んだのよ。 麻里野 盗んだ!? 神田川 そうよ。このオレがぬす、ぐはぁっ!? 神田川、麻里野に殴られる。 神田川 な、何しやがる! 麻里野 バカ野郎! 神田川 ! 麻里野 貴様、それを盗んできただと!?見損なったぞ。ああ、見損なったよ!下着ドロだぁ?貴様、民家から盗んできたのか?それが伝説の天才スナイパー神田川のすることかよ!?それが、オレが憧れた神田川のすることかよ!? 神田川 ……麻里野。 麻里野 わかってくれましたか? 神田川 話を最後まで聞けい! 神田川、麻里野を殴る。 麻里野 ぐはぁっ! 神田川 このパンティストッキングは、この船上で手に入れたものだ。 麻里野 なっ、 神田川 乗船客のバッグの中から頂戴してきた。普通はそんなことできないよな?何が言いたいか、わかるか? 麻里野 ……ここなら、普通なら不可能なことでも不可能、じゃない……。 神田川 その通りだ。これでわかっただろう?この船上なら、暗殺も簡単だ。さあ、行くぞ。 麻里野 うっす。了解っす!やっぱアニキは最高っす! 神田川 よし、じゃあ作戦会議だ。そうだな、まずは今回の掛け声から決めるか。何がいいか……これだな。 麻里野 いいっすね……。 神田川 行くぞ! 神・麻 パンティ☆ストッキング! 二人、退場。暗転。加賀美登場。明転。 加賀美 ふあああぁぁぁ。良く寝たー。ここのところ徹夜続きだったからなぁ。うん、戦士に休息は必要だ。VTR撮影の打ち合わせなんて、クソ食らえだ。 間。 加賀美 はあ……。何でこのクソ忙しい時期に、フェリーのこんな仕事引き受けちゃったかなあ。まあ、上司からの命令だし、断れなかったんだけどぉ。はあ……昨日はノリで「打ち合わせやるならきっちりやりましょう!」なんて言ったけど、面倒臭いなあ。ま、適当に書類だけ渡して、報告書書いといてもバレないでしょ。うん、打ち合わせなんてヤメヤメ!船が着岸するまで適当に時間潰そうっと。 加賀美、荷物の方を向く。 加賀美 あれ?私、バッグ開けっ放しにしてたっけ?って、え!?ちょっ、これ!荒らされてない!?嘘!?しかも、あらされてるの衣類じゃない!ウソでしょ!? 加賀美、しばらくバッグ内を捜索。 加賀美 ストッキング……。ストッキングがない!まさか、盗られた?何で!?何で下着じゃなくてストッキングが盗られるの!?下着もそれはそれで嫌だけど、何かストッキングの方が、盗ったやつが変態臭くてヤダ! 間。 加賀美 ふ、ふふふ……。いい度胸じゃない、逃げ場のない船上で盗みを働くなんて。しかも、よりにもよって、打ち合わせに来ていた私を狙うとは……。これは挑戦ね。私に対する挑戦ね。捕まえてやる。乗船員全員を投入してでも、犯人を捕まえてやる! 暗転。乗組員二人登場。明転。 粟飯原 遅いっすね、お偉いさん。 等々力 そうだな。ま、俺達は台本の確認でもしとくか。持って来てるだろうな? 粟飯原 いくら俺でも、持ってきてますよ。 等々力 何だ、それなら一部余分に刷って来た意味なかったな。 粟飯原 準備いいっすね。 等々力 何しろ相方がバカだからな。 粟飯原 そりゃ大変っすね。 等々力 てめえ……。 粟飯原 あ、誰か来た!あのおっさんがそうじゃないっすか? スナイパー二人登場。 神田川 マリオ。 麻里野 マリノっす。 神田川 いいか?スナイパーは決して正体を知られてはならん。もしバレそうになったら、 麻里野 (銃を構えて)撃つべし。ねじり込むように撃つべし。 神田川、麻里野を殴る。 麻里野 痛っ!何するんすかアニキ! 神田川 馬鹿か!いきなり不穏当な発言をするな。ここはもう敵地だぞ。 麻里野 う、うっす。じゃなくて、パンティ☆ストッキング!で、でもアニキ!じゃあ、バレそうになったらどうするんすか? 神田川 隠し通せ。いかにバレそうになっても、隠し通せ。それが最善だ。 麻里野 りょーか、パンティ☆ストッキング! 粟飯原 すんませーん! 神・麻 ! 粟飯原 ねえ、あんた達、 神田川 ……マリオ。 麻里野 マリノっす。わかってるっす。アニキの言いつけは絶対守るっす。 粟飯原 日本旅客船協会の人? 神田川 は?え、あ?いやいや…… 麻里野 そうっす!自分達、ニホンリョカクセンキョウカイっす! 神田川 ちょっ、おい!マリオ! 麻里野 (いい顔でサインを送りながら)マリノっす。 粟飯原 ああ、よかった。おっせーから何やってんのかと思って、痛っ! 等々力、粟飯原を殴る。 等々力 お、お前は何ちゅう口の聞き方をしとんじゃ!あ、ささ、こちらです。どうぞ〜。 神田川 あ、いや、俺らは、 等々力 どうぞどうぞ〜。 神田川、上手に連れて行かれる。全員退場。そこに加賀美登場。 加賀美 あれ?おっかしいなぁ。ここに迎えが来てるはずなのに。はあ、使えないなぁ。仕方無い、自分で探すか。 加賀美、退場。他四人、再度登場。 等々力 では、時間も押してますんで、早速お願いします。 神田川 え、え〜っと、何をでしたっけ〜?何ちゃって、あはは〜。 等々力 やだなぁ、神田川さん、VTR作成の打ち合わせでしょう? 神田川 で、ですよね〜?あはは〜。 と、神田川、等々力の持つ資料に目をやり、 神田川 これ、資料ですよね? 等々力 え?あ、はあ……。 神田川 いや〜、ちゃんと持って来ているなんて、感心感心。 言いながら、資料を何気なく奪う神田川。 神田川 よし、さっそく始めようか〜。 等々力 はい! 粟飯原 う〜っす。 麻里野 パンティ☆ストッキング! 等・粟 はい? 神田川 バカっ! 等々力 今、何と?パンティ……。 麻里野 パンティ☆ストッキングです! 麻里野、神田川に殴られる。 等々力 パンティ☆ストッキング? 神田川 いや、これは、その……。(急に偉そうになって)何だ、知らんのか? 等々力 え?「知らんのか?」って言われるってことは、何か重要な暗号か何かですか? 神田川 まあ、そんなところだ。な?マリオ。 麻里野 パンティ☆ストッキング!そしてオレはマリノっす。 等々力 パンティ☆ストッキングとは、「肯定」みたいな意味なんですか? 神田川 まあ、そうとってもらって構わない。まあ、そんなことはどうでもいい。早速、始めるぞ。まずは稽古だ。一列に並べ! 等粟麻 パンティ☆ストッキング! 三人、一列になる。 神田川、資料を読み上げる。 神田川 旅客船を運航する以上、事故や災害と無縁でいることはできません。しかしそれをいかにゼロにしていくか。それが安全な運行のため、私達が取り組まねばならない課題です。そこで大切なのが「ヒヤリハット」の撲滅です。どんな重大な事故も、その発生前に多くのヒヤリとする瞬間、「ヒヤリハット」を体験するものです。そうです、これが「ヒヤリハット」です。ドラえもんの秘密道具みたいな名前ですが、似ても似つきません。しかし、事故に至らなかった場合、「ああ、よかった」とそのことをそのまま忘れてしまっては意味がありません。「ヒヤリハット」の段階で、以後同じようなことが起こらないように対処していくことが、重大な事故や災害を、防ぐことにつながるのです。そこでこの作品では、様々な事故や災害の背景に存在するヒヤリハット現象を検証。さらに「ヒヤリハット」を事故防止に役立てられる体制作りについて考えてみたいと思います。 四人  「ヒヤリハット」をいかす。 粟飯原 じゃじゃん。 神田川 よくぞ来たぁ!お前達が来るのを待っていた! 間。 神田川 はいカーット! 等々力 ええ!?まだ始まったばかりじゃないですか! 神田川 貴様らぁ!このVTRの設定は何だ?言ってみろ。 等々力 え、ええ〜っと、軍隊の「ヒヤリハット」撲滅講座です。 神田川 そう、つまり俺は将校様だ。お偉いさんには菓子折りの一つでも持ってくるのが礼儀ってもんじゃないのか?だろ?マリオ。 麻里野 パンティ☆ストッキング!そしてオレはマリノっす。 等々力 いや、確かにそうかも知れませんが、台本通りにやらないと。 神田川 馬鹿者!台本通りにやって何がおもしろい!そんなVTR、作るだけ無駄だぁ! 等々力 す、すみません! 神田川 もう一度やるぞ! 粟等麻 パンティ☆ストッキング! 神田川 よくぞ来たぁ!お前達が来るのを待っていた! 等々力 あ、本日はどうもぉ。これ、つまらないものですが、文明堂のカステラです。 神田川 うむ、貴様、見所があるな。さあ、列につけ。よし、今日は貴様らに「ヒヤリハット」について教えてやる! 粟等麻 サー・イエッサー! 神田川 カーット! 等々力 こ、今度は何です? 神田川 普通すぎる。もっと、九州らしさを出さないと。さっきせっかくカステラで長崎らしさをアピールしたのが無駄になってしまうだろ。 神田川 な、なるほど。しかしどうすれば…… 粟飯原 こういうのはどうだろう?沖縄風だ。「さぁ、いえすさぁ」 神麻等 それだ! 神田川 よし、次に進むぞ。 麻等粟 さぁ、いえすさぁ 神田川 例えば貴様、この一週間以内に仕事中、「あ!」とか「やばい!」とか「ひやっ」とか、「ドキッ」とか「怖っ」とか思ったことはないか? 粟飯原 え?そう言えば、おととい、階段の下に立ってたら、女性のスカートの中が見えそうになって、ドキッとしました。 神田川 馬鹿者!そういうことではない!じゃあ次、貴様! 麻里野 五日前、ターゲットを一発でやり損ねた時はドキッとしました。 神田川 確かに、狙撃は一撃で仕留めなければいけないからな。ってバカぁ! 神田川、麻里野を殴る。 等々力 ターゲット? 粟飯原 狙撃? 神田川 いやいやいや!気にするな。次、貴様。 等々力 あ、そう言えば、三日前、漁船が結構近くを横切って、一瞬ドキッとしたな。 神田川 そう、それだ。そういうのを待っていた。で、その後どうした? 等々力 いや、別に事故にならなかったから、特に何もしてませんけど…… 神田川 馬鹿者ぉ! 等々力 うわっ!びっくりしたぁ。 神田川 貴様が体験したものこそ、まさに「ヒヤリハット」。それを放置するとは、今後、同じような事故を未然に防ぐための大切な手掛かりを、無駄にしてしまったということなんだぞ!これを見て、ヒヤリハットの持つ意味を考えてみろ。……何々、ここで再現VTRが流れる?事故例1、揺れている旅客船の船内、一人のお客が消火器の近くを歩いている。 粟飯原 (棒読み)わあ〜、今日は揺れるなあ。 神田川 次の瞬間、止め具が壊れて外れ、消火器がお客に当たり、ケガを負ってしまう。 麻里野 (棒読み)ばきっ!(棒読み、消火器を倒す)がた〜ん。 粟飯原 (棒読み)うわっ、や〜ら〜れ〜た〜。ばたり。 神田川 これを見てどう思った? 等々力 どうって、不幸な事故だなぁって。偶然は怖いと思いました。 神田川 馬鹿者ぉ! 等々力 うわっ! 神田川 あれは偶然なんかではない。これを見てみろ。一時間前の映像だ。 粟飯原、麻里野、消火器を一旦起き、離れる。 神田川 これを見てどう思う? 等々力 え?あっ、消火器が外れてる! 神田川 そう、この時点で既に、止め具の不備で消火器は外れていたのだ。 麻里野登場。 麻里野 (棒読み)何で外れたんだろう。ん?一応止まるな。ま、大丈夫だろう。 麻里野退場。 等々力 あ、出て行った。 神田川 そう、この時点で既に異常があったにも関わらず、その場しのぎで対処し、報告もしていなかった。そしてこれだけではない。次はもう三十分前の映像だ。 粟飯原登場。 等々力 あ、消火器を取り換えてる。 粟飯原 (棒読み)あれ、ちょっと留め具の調子が悪いのかな?ガタついてるなぁ。ま、外れはしないだろうから、報告するまでもないな。 粟飯原退場。 等々力 あ、またそのままに……。 神田川 そう、この時点で止め具をしっかりチェックしていれば、あの客は事故に遭うことはなかった。 等々力 なるほど。事故の前に、前兆が何度もあったんですね? 神田川 その通り。しかし、残念ながらそれを生かすことができなかった。ここでの問題点は、不備があるのにその場しのぎで対処し、そのまま放置。さらに報告するまでもないと判断し、誰にも報告しなかったことだ。 等々力 事故が終わることが分かっていれば、間違いなくちゃんと対応するんでしょうね。 神田川 しかし、実際こうした「ヒヤリハット」が事故を生むかはわからない。だから、一つ一つ対応しなければならないのだ。 等々力 はい! 神田川 と、まあ、前半部分はこんなもんだ。 そこに加賀美登場。 加賀美 ここに来れば、職員の一人くらいいるでしょう。 神田川 よし、この調子で後半部分いくぞ! 麻等粟 パンティ☆ストッキング! 加賀美 ぱ、パンティストッキング!? 間。 等々力 お客さん、勝手に入って来られると困るよぉ。 等々力、粟飯原、加賀美を追いだそうとする。 加賀美 ちょっ、放しなさい! 神田川 あ、あの女、どうしてここに……。 麻里野 アニキ、知りあいっすか? 神田川 パンティストッキングの持ち主だ。 麻里野 マジっすか!? 加賀美 そこの二人!話を聞かせてもらおうかしら? 粟飯原 お客さん、困るって! 麻里野 アニキ、どうするんすか? 神田川 オレに考えがある。合わせろ。 麻里野 パンティ☆ストッキング! 麻里野、殴られる。 加賀美 ま、また言った!あんた達!パンティストッキングって、 神田川 テロリストだ! 等粟加 !? 神田川 等々力さん、粟飯原さん、そいつはテロリストだ!捕まえて下さい! 加賀美 え!? 等々力 ほ、本当ですか!? 神田川 本当です!な? 麻里野 パンティ☆ストッキング! 粟飯原 くそ、怪しいとは思っていたが! 加賀美 何言ってるのよ!あいつらのほうが百倍怪しいでしょ!白昼堂々、パンティ☆ストッキング!なんて叫んでいるのよ! 粟飯原 馬鹿め!あれは肯定を表す専門用語だ! 加賀美 そんなの聞いたことないわよ! 神田川 等々力さん、粟飯原さん、テロリストの声に耳を傾けてはいけません!な? 麻里野 パンティ☆ストッキング! 神田川 等々力さん、粟飯原さん、頑張ってください! 等・粟 パンティ☆ストッキング! 加賀美 何なの!?この変態達は! 等々力 覚悟しろ、テロリスト! 等々力、粟飯原、加賀美を攻撃しようとするが、逆に倒される。 等々力 ぐはあっ! 神田川 等々力さん! 麻里野 粟飯原さん! 加賀美 何のつもりだか知らないけど、私は今日、ここにVTR作成の打ち合わせをするために来た加賀美よ! 等々力 え? 加賀美 船上でストッキングが盗まれたという情報が入ったわ。あなた、ここの職員なら犯人探しを手伝いなさい。 等々力 ど、どういうことだ? 神田川 等々力さん、惑わされてはいけません!奴の言うことは全てウソです!その証拠に、奴はパンティ☆ストッキングの意味を知らなかった! 等々力 た、確かに! 加賀美 そんなのわかるわけないでしょ!その二人が偽物なら、それすら嘘なんだから! 等・粟 ! 加賀美 もう一度言うわ。私は日本旅客船協会の加賀美よ。あんた達は? 神田川 オレ達は……。 加賀美 オレ達は? 神田川 日本旅客船協会、神田川(ポージング)! 麻里野 麻里野だ(ポージング)! 加賀美 嘘よ! 粟飯原 こ、こんな一瞬で動きを合わせるなんて、偽物にはできない!やっぱりあなた達が本物だ! 加賀美 待て待て待て待て待てえええぇぇぇい! 粟飯原 (凄く面倒そうに)何ですか? 加賀美 ぐっ、ムカつく反応ね。で、でも、これを見なさい!職員証よ! 等々力 やっぱりあなたが本物でしたかぁ。 加賀美 わかればいいのよ。さっきまでの不礼も許してあげるわ。 等々力 ははあ。 粟飯原 ちょっ、等々力さん! 神田川 ふっ、そんなもの、盗めば手に入るだろう。おい、マリオ。 麻里野 パンティ☆ストッキング!そしてオレはマリノっす。 麻里野、紙を持って来て、何やら書き始める。 神田川 オレ達なんて、毎日見ているせいで、協会の旗を空で描くことができるぞ。 等々力 何と!? 加賀美 そ、そんな馬鹿な……。 神田川 行け、マリオ! 麻里野 パンティ☆ストッキング!そしてオレはマリノっす。 麻里野、紙を広げる。 そこには、本マグロの頭が描かれた絵画。 等々力 う、うわあああぁぁぁ! 神田川 よくやった、マリオ。 麻里野 自信作っす。そしてオレはマリノっす。 加賀美 こんな、協会の旗が、あるかあああぁぁぁ! 神田川 む?ならば、 麻里野、新たに紙を広げる。 そこには、数多の魚の頭が並べられた絵画。 粟飯原 あああああぁぁぁぁぁ! 神田川 よくやった、マリオ。 麻里野 自信作っす。そしてオレはマリノっす。 加賀美 こんな、協会の旗が、あるかあああぁぁぁ!って二度もやらすなぁ!そしてちょいちょい出てくるこれは何だぁ! 加賀美、二枚の隅に描かれている旗みたいなものを指差す。 神・麻 パンティ☆ストッキング! 加賀美 いちいち強引に割りこますな!そもそも、そんなもん大して重要でもないでしょ! 神田川 重要だ!マリオ! 麻里野 パンティ☆ストッキング!そしてオレは、マリノっす。 神田川、懐からパンストを取り出し、麻里野に手渡す。 麻里野、踊り出す。 麻里野 パンパパン♪パンパパン♪ 神田川 見ろ、あれこそ我が協会に伝わる、パンティ☆ストッキングダンスだ。 加賀美 そんなのあってたまるか! 麻里野 パンパパン♪パンパパン♪もっちり♪もっちり♪も〜っちり♪ 加賀美 返しなさい!私のストッキング! 神田川 ストッキング?ノンノン♪これは、 四人  パンティ☆ストッキング! 加賀美 何で四人揃うのよ!?とにかく、返しなさい! 神田川 返す?何をだ? 加賀美 ストッキングよ! 神田川 違う。これは、 四人  パンティ☆ストッキング! 加賀美 もうお前ら黙れ!そして返せ! 神田川 その願いは聞けんな。これは我らの象徴だからな。それにこいつも、自分の本当の名を呼んでくれる者のもとにいたいだろう。 加賀美 はあ!? 神田川 返してほしいか?だったら、呼んでみろ!こいつの本当の名を! 加賀美 ……。 神田川 呼べないのか?だったら、これはオレのものだ!悔しいか?悔しいだろう?だったら呼べ!こいつの真の名を!大声で! 間。 加賀美、意を決したように前を見る。 五人  パンティ☆ストッキング! 間。 粟飯原 というVTRにしよう。 四人  やれるかあああぁぁぁ!   (了)