Ticket Free 竹内志帆 ?      登場人物      朝倉夏色(あさくらなついろ)  地味な少年。主人公。      江間架(えまかける)      団体チケット・フリー創設者。多弁家。      七海一海(なつみかずみ)    チケット・フリー団員。女装少年。      斐川恵(ひかわけい)      チケット・フリー団員。気弱少女。      杜前梨果(もりさきりか)    生徒会長。悪魔(江間・談)。      音羽響(おとわきょう)     団体マーケット・フルーツ創設者。熱血漢。      白水泉(しらみずいずみ)    マーケット・フルーツ団員。ドラム。      美作光輝(みまさかこうき)   マーケット・フルーツ団員。ベース。      斬次晴(ざんじばる)      演劇部マスコットキャラクター。着ぐるみ。 *TF:チケット・フリー *MF:マーケット・フルーツ?           1      夏色と江間だけが教室内にいる。 江間 君、地味だね。 夏色 は? 江間 いやー、地味だ。これ以上ないくらい地味だ。 夏色 はぁ?あんた、何言って…… 江間 地味だ。地味だ、じみだジミダZIMIDA! 夏色 おい、あんた何が言いたいんだよ。 江間 君が地味だということだ! 夏色 ほぉ、あんたオレにケンカ売ってんだな?そうなんだな?待ってろ、今この拳に怒りのパワーを溜めてるからな…… 江間 合格だ! 夏色 ! 江間 その月並みな態度、満点だ!さすが、私が見込んだ男。何という地味さだ、私なんて足元にも及ばない。自分のことを地味だと思っていた自分自身が恥ずかしくて仕方がないよ。君こそ地味の中の地味だ。キング・オブ・ジミー!それこそ君だ! 夏色 ……何言われてるのかはいまいちわからんが、どうやらバカにされてるのだけは理解できたわ…… 江間 ノン!断じてノン!そんなことはない。私はむしろ、君のことを誰よりも評価している。いや、いっそ尊敬、いやいや、崇拝していると言ってもいいほどだ。 夏色 ……(ひいている) 江間 おっ、その顔は全てを理解した上での覚悟の顔と見てよいのだね? 夏色 は? 江間 何の説明もなしに全てを理解してくれるとは、さすがは夏色君。君はやはり、我らがリーダーに相応しい。さぁ、行こう。我らが楽園へ! 夏色 はあああぁぁぁ?      夏色、江間に手を引き摺られながら、 夏色 待て!ちょっと待ってくれえええぇぇぇ! 江間 なんだい?リーダー。 夏色 いや、リーダーじゃねーし。あんた、さっきから何言ってんだよ?わけわかんねえ。地味?尊敬?崇拝?楽園?意味わかんねーよ。 江間 ん?そうか、あまりに唐突だったな。 夏色 そうそう。 江間 まずは自己紹介からだと言うのだな? 夏色 違う。 江間 私の名は江間架だ。江頭2:50の江に、間寛平の間に、十字架の架と書く。三年一組の生徒だ。身長176センチ・体重62キロ(適当に変更可)、科学部に所属している。ちなみに、女性経験はゼロだ。 夏色 いや、だから自己紹介いらねーし、そんなカミングアウトも必要ない。 江間 重ねてちなみに! 夏色 ! 江間 初恋は幼稚園の頃、相手は同じ彼岸花組のリカちゃんだ! 夏色 聞いてねぇ!しかも彼岸花組って何だよ!彼岸花って確か、別名・死人花だろ? 江間 結果?聞くな。……振られたさ。 夏色 だから、聞いてねぇって。 江間 だが、私は諦めない。彼女が振り向いてくれるまで、後をつけ続ける! 夏色 ストーカーじゃねーか!もう諦めろよ! 江間 何度も挫けそうになったさ。やめようと思ったさ。諦めようと思ったさ。だが、たった一言、あの時彼女がかけてくれた、たった一言で私は頑張れた。 夏色 何だ? 江間 キモい。 夏色 うおおおぉぉぉい! 江間 ?どうした?私は何か変なことを言ったか?実は、私は略語が苦手でね。最初は意味がわからなかった。だが、現代国語担当の古河先生に意味を尋ねたら、「そいつは『気持ちいい』って意味だ」と答えてくれたよ。 夏色 間違ってるから!略語の意味をオヤジに聞くな!若者に聞け!若者に! 江間 な、何ぃ?では、K・Yの意味は? 夏色 何だと思ってた? 江間 剣道・四段。 夏色 メーン!って違うわぁ!一個も合ってねーよ! 江間 そ、そうなのか?私はいつも言われるが、「違う!私は三段だぁ!」と言い返してたのに? 夏色 知るか! 江間 と、いうわけで、行こう!(江間、夏色の腕を引く) 夏色 どういうわけだよ! 江間 グダグダ言ってんじゃねぇ! 夏色 ! 江間 昔、あるおっさんが言っていた……。 夏色 何だ? 江間 「覚悟を決めろ、これはお前の物語だ!」 夏色 ……どっかで聞いたことあるぞ、それ。ゲームか何かだろ? 江間 夏色君、そんなことは問題ではないのだよ。言っていることは間違っちゃいない。そうだ、覚悟を決めるんだ。 夏色 何の覚悟だよ。 江間 我らがリーダーになる覚悟だ。 夏色 だからぁ、意味がわかんねえって。リーダーって何のだよ?科学部か? 江間 チケット・フリー。 夏色 ? 江間 私が所属する団体の名だ。この団体のリーダーとして、君を迎え入れたい。 夏色 チケット・フリー?何だそれ? 江間 来る十月十四日土曜日、その日が何の日だかわかるかね? 夏色 さあ? 江間 すばらしい!その反応、まさに百点だ!地味な君に相応しい反応だ!何というか、こう、やる気が一切感じられない! 夏色 何だ?またバカにされてんのか? 江間 違う。私は感動しているのだ。君のような存在に出会えたことを。 夏色 オレのような存在? 江間 そう、地味にして、普通にして、無気力!最高じゃないか! 夏色 いい要素が一個も見当たらねーよ。 江間 一花咲かせたい! 夏色 ? 江間 そう思ったことはないか?私はいつも思っていた。普段、教室で影や空気のような存在でしかない自分が、一時でもいいから輝く瞬間を切望していた。だが、そんな瞬間、待っていても訪れるはずがない。      間。 江間 だから、作った。その瞬間を作るための集団を。それが「チケット・フリー」だ。目的は一つ。来る十月十四日に開催される文化祭で、我々の存在を知らしめることだ。地味?大いに結構。だからこそ、最後に上げる花火も大きくなるのさ。 夏色 ……お前らがやりたいことはよくわかったよ。でも、何でオレなんだ?何でオレがリーダーなんだ?オレは、全然関係ないじゃないか。 江間 あるさ。大いにある。だって、君は地味じゃないか。 夏色 はあ? 江間 チケット・フリーのメンバーは私と同じ思想を持っている。つまり…… 夏色 つまり? 江間 全員、地味だ。 夏色 は? 江間 全員地味なのだよ。今まで誰に注目されることもなく、高校生活を送ってきた。だから、自信がない。 夏色 自信がない? 江間 そう、だから君が欲しい。誰よりも地味な君が、リーダーに相応しい。 夏色 地味だからリーダーって……。 江間 自分より地味な人間がいるって…… 夏色 何だ? 江間 思いのほか、嬉しいよ。 夏色 オレは嬉しくねーよ!学校一番の地味人間だって言われてるようなもんじゃねーか。 江間 そう言っているのだが? 夏色 ぐあぁっ?貴様!何てことを! 江間 朝倉夏色十八歳!朝青龍の朝に、倉石武四郎の倉、ゆずの名曲「夏色」と書く。三年三組の生徒だ。身長169センチ・体重58キロ、帰宅部だ。女性経験はなし。何て地味なんだ! 夏色 ぅおいっ!何でそんなことを知っている!そして、倉石武四郎って誰だ? 江間 中国語学の文学者だ。知らんのか? 夏色 知らんわ。 江間 元・京大・東大教授だぞ? 夏色 知らんものは知らん。 江間 まあいい、それでは行こうか? 夏色 行かねえよ! 江間 頼む!      江間、土下座。 江間 君は居てくれるだけでいいんだ!それだけで、大いに力になる。私にはできないことだ。君にしか、できないことなんだ……。      間。 江間 頼む……。 夏色 ……わかったよ。 江間 え? 夏色 居るだけでいいんだろ?それでいいなら、やってやるよ、リーダー。 江間 十分だ。 夏色 居るだけだからな?何もしないからな? 江間 ああ、それでいい。よかった……もし土下座でも承諾してくれなければ、脅迫が必要になっただろう。 夏色 は?脅迫? 江間 私の自己紹介で語って、君の紹介で語ってない項目は? 夏色 え?……初、恋? 江間 君の初恋は中二の冬、相手は、 夏色 言わんでいい!やるから!リーダーやるから言うなぁ! 江間 では、行こうか?      江間、夏色の手を引き、教室を後にする。      暗転。           2      明転。      七海、部室で箒を持って掃除をしている。 江間(声) いいかい?一瞬、ショッキングな映像が君の脳に映し出されるが、気にすることはない。覚悟を決めろ、すぐに慣れる。 夏色(声) は?おい、何で教室に入るのに覚悟が必要なんだよ。 江間(声) いいから、いいから。ささ、とにかくお入りください。 夏色(声) 何なんだよ一体。って、おい!何でオレを盾にしてるんだよ。      二人、部室に入る。と、七海がそれに気付き、 七海 お帰りなさいませ、ご主人様? 夏色 ……。 七海 あっ、お茶を入れてきますね?      七海、片隅でお茶を淹れ始める。 夏色 おい、あれは何だ? 江間 七海一海君だ。相川七瀬の七に、内海光司の海、河村隆一の一、内海哲也の海と書く。三年四組の生徒だ。身長165センチ・体重53キロ、帰宅部だ。ちなみに、性別は男だ。 夏色 いや、それは見ればわかるわ。どちらかというと、こいつがオカマかどうかを聞きたいわ。 江間 いや、彼はいたって普通の男子高校生だ。ノーマルだ。何せ、うちのメンバーだからな。 夏色 はあ?あれの何が普通だよ。どこが地味だよ。お前といい、あいつといい、ここのメンバーは普通どころか変人や変態ばかりじゃねーか。      七海、二人に近づいて来て、 七海 お茶が入りました? 夏色 うわあ!びっくりしたぁ! 江間 七海君、御苦労。 七海 彼は? 夏色 オレ? 江間 紹介しよう。彼が例の男・朝倉夏色君だ。 七海 え?本当ですか?彼があの、学校一地味な? 江間 ああ、学校一地味な夏色君だ。 夏色 おい。 七海 (夏色の手を取り、うっとりしながら)リーダー……。 夏色 やめい!気持ち悪い! 七海 リーダー?      七海、夏色に抱き付こうとする。が、夏色は必死に抵抗。 夏色 やめろ!近付くな!変態!オカマ! 七海 あたしはオカマじゃありません! 夏色 どう見てもオカマじゃねーか! 七海 そんな……。酷い……。(七海、崩れ落ちる) 江間 夏色君、彼の格好には深い事情があるのだよ。 夏色 不快な事情? 江間 深い事情だ。 夏色 ……何だよ。 江間 彼も地味な人間だ。 夏色 それがどうした? 江間 夏色君、そんな人間が手っ取り早くキャラを立てるには、どうすべきだと思う? 夏色 さあ? 江間 簡単だ。演じればいいのさ。 夏色 演じる? 江間 そう、濃いキャラクターを演じればいい。 夏色 濃いキャラクターを演じる?……ってことは、あいつはキャラを立てるためだけに、あんな格好と性格をしているのか? 江間 さっきからそう言っているではないか。 夏色 間違ってるから、お前ら色々間違ってるから! 七海 間違ってなんかいません! 夏色 ! 江間 方法は何にしろ、彼は自分を変えようとしているんだ。それを否定する権利が、君にはあるのかい? 夏色 ぐっ……。 七海 江間君、あたしは彼ではなく、彼女です? 江間 ああ、そうだったな。すまない、七海君。      ドアをノックする音が聞こえる。      ドアの向こうには二人の少女がいる。 江間 さあ、リーダー、初仕事だ。 夏色 え? 七海 リーダー頑張って。 夏色 はあ?オレに何をしろと? 江間 一言、「どうぞ」と言えばいいのだよ。 七海 「入っていいですよ?」でもオッケーです? 夏色 何でオレが、 江七 リーダーだから。 夏色 は? 江間 ここは我らチケット・フリーの部室だ。我らがリーダーは誰だ?君だ!つまり、ここは君の部屋だ。この部屋の主は君だ!ならば、入室許可は君が出すべきだろう? 夏色 ……どうぞ。      ドアが開く。 二人の少女・恵と梨果が入室する。 江間 おお!恵君、どうだった? 恵  だめでした。ごめんなさいーーー。 江間 何い?またもか。くそぉ、あの悪魔め。 恵  いえ、私が悪いんですぅ。私が至らないばかりに〜〜〜。 七海 恵ちゃん、そんなことないよ。泣かないで、あたしが付いてるから。 恵 一海ちゃ〜ん。うわあああぁぁぁん。 七海 泣かないで、恵ちゃん。何だか、あたしも悲しくなってきちゃった。うわあああぁぁぁん。 江間 二人とも、泣くんじゃない。まだまだ我らのロード・トゥ・レジェンドは始まったばかりだ。おぉ、よしよし。いい子だねぇ、二人とも。 梨果 ここは幼稚園か。 夏色 ……。      江間、夏色が三人のやりとりにひいているのに気付いて、 江間 すまない、夏色君。置いてけぼりになっていたな。紹介しよう、斐川恵君だ。甲斐よしひろの斐に、川崎宗則の川、奥菜恵の恵と書く。三年五組の生徒だ。身長153センチ・体重……は控えておこう。レディだからな。 恵  よ、よろしくお願いしますぅ。 夏色 よ、よろしく。 江間 恵君、もう気付いているようだが、君の眼の前にいる男こそ、我らがリーダーにして、学校一地味な男、朝倉夏色君だ。 夏色 おい!手を合わすな! 七海 あたし達にとって、夏色君はそれ程の存在ということです。 夏色 ……あの子は?      夏色、隅で傍観していた梨果を指差す。 三人 は? 恵  あのぅ、夏色君?今何て言って…… 夏色 だから、あの子は何者だ?あの子もここのメンバーなのか?      間。 夏色 おい、何だその「信じられないものを見た」的な眼は? 七海 本当に、彼女のこと知らないんですか? 夏色 ああ。って、何だその絶望に沈んだ眼は。 七海 そのままの意味です。 夏色 はあ?意味わかんねえ、 江間 グ、グレイトー! 夏色 ! は? 江間 ブラボー!ナイス!グッジョブ!エクセレント!ワンダフル!ユー・アー・ザ・ナンバーワーン! 夏色 ど、どうした?ついに壊れたか。 江間 夏色君、君はどこまで期待を裏切らない男なんだ!彼女を知らないなんて、予想以上だ!すまない、私は君の無気力さを侮っていたようだ。 夏色 おい、またオレを馬鹿にしてるだろ? 江間 とんでもない!何度も言うように、私は君を尊敬しているのだ。馬鹿にするなんてことがあるわけないだろう? 夏色 いーや、馬鹿にしてるね。絶対馬鹿にしてる。 江間 紹介しよう。 夏色 無視かよ。 江間 彼女の名は杜前梨果。漢字は……あー、いいや、面倒臭い。 梨果 おい。 江間 我が校の生徒会長だ。      間。 夏色 ええええええぇぇぇ! 恵  (小声)信じられません〜。自分の学校の生徒会長の顔を知らないなんてぇ。 七海 (小声)恵ちゃん、彼を常人の物差しで測ってはダメです。何せ、彼は学校一地味で無気力で無関心な男なのですから? 夏色 聞こえてるぞ、そこ。小声で喋るなら聞こえないように喋りなさい。 梨果 朝倉君。 夏色 は、はい! 梨果 君、三年三組だよねえ? 夏色 はい。 梨果 あたし、何年何組の生徒かわかる? 夏色 いえ、知りません。僕はエスパーではないので。 梨果 三年、三組。 夏色 え? 梨果 あたし、三年三組の生徒なの。 夏色 え? 梨果 これが何を意味しているか、わかるよね? 夏色 え、えーっと、クラス……メイト? 梨果 せいかーい。そう、あたしと、あなたは、く・ら・す・め・い・と? 夏色 は、ははは。ははははははは。 恵  (小声)えええぇぇ?クラスメイトが生徒会長だってこと知らなかったんですかぁ? 七海 (小声)恵ちゃん、それ以前の問題です。彼はクラスメイトの顔を覚えてなかったんですよ。それも、一番有名なクラスメイトの顔を。 江間 か、神だ。 恵  (小声)梨果さん、怒ってますよねぇ? 七海 (小声)そりゃあ、怒りますよ。顔を覚えられてないどころか、クラスメイトだと認識されてもいなかったんだから。 夏色 あのー、怒ってます? 梨果 いいえ、あたし、温厚な生徒会長ですから、オコッテマセンヨ。 夏色 ひいいいぃぃぃ。      ドアをノックする音が聞こえる。           3 夏色 ……ど、どうぞ。      ドアが開く。すると、着ぐるみを着た人間が入室してくる。      斬次である。 斬次 ふみゃあ。 五人 は? 斬次 みゃ。ふみゃーあ。みゃあ。 斬次、一人一枚ずつビラを配る。 江間 何々?来る十月十四日・十四時より、第二体育館において演劇部秋季公演開催決定?是非是非、お誘い合わせの上、ご来場下さい。マスコットキャラクター・斬次晴も待ってるぜ? 斬次 ふみゃあ。      斬次、威張る。全員が謎の着ぐるみ=斬次だと気付いた頃、斬次は手を振りながら去って行く。 七恵 バイバーイ。 斬次が去った後、奇妙な沈黙が訪れる。 江間 あー、話の腰が折れまくったが、さっきは何を話していたかな? 四人 ……。 江間 どうした?忘れたのか?それとも、わざわざ蒸し返すまでもないということかな? 四人 ……。 江間 では、私が喋ってもいいかな?まあ、正確に言うと尋問だが。 夏色 何だ? 江間 杜前君、わざわざ我らが部室まで、何の用だい? 梨果 言わなくてもわかっているでしょう?文句を言いに来たのよ。 江間 文句?そんなものを言われる筋合いは一つもないが? 梨果 大ありよ! 恵  ひっ……。 梨果 まず、この空き教室。部室にしていいだなんて、許可した覚えないわよ。 江間 当然だ。申請していないからな。 梨果 空き教室は勝手に使ってはいけない。部室使用は生徒会の許可が必要。校則よ。 江間 規則など、破るためにあるのではないかな? 梨果 守るためにあるの。そしてもう一つ。 江間 何だい? 梨果 さっき斐川さんが提出した申請書。受け取れないわ。 江間 何?何故だ? 梨果 言わないとわからない?今までボツになった二十八枚の申請書全てと同じ理由よ。      二人、睨み合う。 夏色 申請書?何の申請書だ? 恵  文化祭の出し物の申請書ですぅ。 夏色 それに許可貰えないと、出し物が出来ないんだよな? 恵  そうですぅ。 夏色 何でダメなんだよ? 恵  ……。 七海 それは、 梨果 まず、責任者の名前欄に何も記名されていない。 江間 今までリーダー不在だったからな。だが、先程見つかった。彼が責任者だ。 夏色 オレ? 梨果 朝倉君? 夏色 ひいっ!ごめんなさい! 梨果 次、参加人数。何これ?「大勢」って、アバウト過ぎるのよ。 江間 これからたくさん増える予定だ。未知数だから断定的な書き方はできない。 梨果 次、希望使用スペースと希望使用時間。 江間 何の問題が? 梨果 「第二体育館を三時間」?長すぎるわよ! 江間 仕方がないだろう?演目がまだ決まってないんだ。場所は広めに長めに取っておくに限る。 梨果 そこ!そこが一番問題なのよ!演目「未定」って何よ。一番重要なところでしょう?そんなことも決まってないのに、申請書が受理されるわけないでしょう? 江間 決まってないものは仕方がない。そこを何とかするのが、君たち生徒会の仕事ではないのかね? 梨果 何とも出来ないから文句言いに来てるの! 江間 出来なくてもやる!君たちにはその気概が足りないのだよ。 梨果 何であんたのために無理無茶無謀をやらなきゃいけないのよ! 江間 生徒会長だから。 梨果 会長にも限界があるのよ! 江間 限界を超えろ! 梨果 簡単に言うな!カッコよく言っても無理なものは無理なの!そしてあんた何様だ! 江間 俺様だ。      梨果、机に申請書を叩きつける。 梨果 と・に・か・く!今言った項目をクリアしてから提出して下さい!      梨果、去る。           4 江間 まったく、騒がしい女だ。 恵  怖かったぁ……。 夏色 死ぬかと思った……。 恵  それは夏色君が悪いですぅ。 夏色 オレ? 恵  そうですぅ。 夏色 マジかよ? 恵  マジですぅ。 夏色 そう言う……斐川さんだっけ?……斐川はクラス全員の名前と顔わかるのかよ? 恵  当然ですぅ。 七海 夏色君が変なんです? 夏色 何だと? 七海 男なら、クラスの女の子の顔くらい把握すべきです。名前くらい把握すべきです。かわいい子、目立つ子なら特に!それが男というものです。 夏色 その恰好でそんなこと熱弁するな。 七海 梨果さん、きっと怒ってますよ? 夏色 うっ……。 恵  間違いなく、怒ってますぅ。 夏色 う、うぅっ……。そ、そんなことよりっ!申請書!書き直さなくていいのか?って言うか、演目!考えなくていいのか?文化祭まで、あまり時間はないぞ? 七海 確かに、そうですね? 夏色 お、おい!江間!演目!考えるぞ!それさえ決まれば、あとの項目はどうにでもなるだろ! 江間 おっ、夏色君、ついにリーダーとしての自覚が出てきたか。そうだな、はじめよう。 夏色 あ、あはははは……。 江間 では、席に座って会議だ。七海君、人数分お茶を。 七海 かしこまりました?      七海、お茶を片隅で淹れる。      他三人はバラバラの机を会議できる状態に集める。      七海がお茶を持って来る。 夏色 サンキュ。 江間 御苦労。 恵  ありがとうございますぅ。      全員が席に着いたのを確認してから、 江間 では、会議を始めよう。夏色君、司会を頼む。 夏色 え?オレ? 江間 他に誰がいると? 夏色 え〜、では、会議始めま〜す。まず、演目決めましょー。意見ある人、挙手ー。 三人 ……。 夏色 おい、何かねーのかよ。何でもいいから、言ってみ?ほれほれ、手ぇ挙げろー。 三人 ……。 夏色 おいおい、マジで何もねーのかよ?このままじゃ決まらねーぞ?いいのか?それで。 江間 夏色君、実は今まで三人で色々案を出してはみたのだが、結局全てボツになってしまってね……。 夏色 へえ。でも、このままだと本当に申請書の提出期限に間に合わねーぞ。……そうだ、この際何でもいい。ボツになったやつでも、思いつきでも、自分の趣味でも、何でもいい。とりあえず、案出してみろ。書き出していって、それから検討しよう。 江間 そうだな、そうしよう。何も出ないよりマシだろう。 夏色 では、あらためてー、意見ある人ー、挙手ー。 七海 はい! 夏色 おっ、さっそくか。はい、七海君。 七海 この際、第二体育館じゃなくて、この部室を使って、女装喫茶やりましょう? 夏色 却下。 七海 ええ〜。どうして?検討は後でって言ったじゃないですか〜。 夏色 どうして?オレがやりたくないからだ。どうせオレも女装させられるんだろ?それだけは、絶ッ対!嫌だ! 七海 ええ〜。やってみると、意外に楽しいですよ? 夏色 ダメ!絶対! 七海 うぅ……。 夏色 他ある人ー。 江間 はい。 夏色 はい、江間君。 江間 こういうのはどうだろう?あの憎き生徒会の悪事を暴き、体育館の壇上で披露するというのは。 夏色 却下。 江間 何故だ! 夏色 ネガティブ過ぎるわ!もっと高校生らしい爽やかな意見は出せんのか? 江間 楽しいぞ? 夏色 お前だけがな! 江間 いい案だと思ったのだが。 夏色 お前、どんだけ生徒会を敵視してんだ。 江間 奴らは悪魔の集団だ。敵視していないほうがおかしいというものだろう。 夏色 だとしたら、この学校の生徒はお前以外、ほとんどおかしいことになるぞ。 江間 君は奴らの本性を知らないからそんなことが言えるんだ。 夏色 何だよ、本性って? 江間 先程のやりとりでわかっただろう?奴らは私達のような、か弱い一般生徒を弾圧することに喜びを感じる外道共なのだ。 夏色 オレには、か弱い一般生徒を無理矢理変な団体の団長に祭り上げる人間のほうが、よっぽど外道に思えるんだが。 江間 ほう。そいつは確かに外道だな。一体、どこのどいつだ? 夏色 ……まあ、この話はまた今度でいいわ。とにかく、江間の案は却下。次、意見ある人。 恵  はい。 夏色 はい、斐川さん。 恵 私は映画を撮って、放映したいですぅ。 夏色 おお、やっとまともな意見が。それで、どんな映画を撮りたいんだ? 恵  恋の話ですぅ。 夏色 王道だな。 恵  登場人物は夏色君と江間君と一海ちゃんですぅ。 夏色 他は? 恵 ? それだけですよぉ? 夏色 は? 恵  だから、登場人物は夏色君と江間君と一海ちゃんの三人だけですぅ。 夏色 あれ?さっきは恋の話って言ったよね?男三人でどうやって恋の話をやれと? 恵  それは、……言わなくてもわかりますよね? 夏色 ……いえ、わかりません。 恵  だから、男三人で禁断の恋をぉ、 夏色 あああぁぁぁ!わかったわかった!わかったから!それ以上は言わなくていい! 恵  オッケーですかぁ? 夏色 全然オッケーじゃないよ!むしろ一番ダメだよ! 恵  そんなぁ……。 夏色 お前ら、さっきは趣味でもいいって言ったがなあ、趣味に走りすぎだ。もっとまともな意見を出せ。 恵  そんなこと言われましても……そんなに言うなら、夏色君も何か案出して下さいよ。 夏色 オレ? 恵 そうですぅ。私達の意見をあれだけバッサリ切ったんですから、夏色君はさぞ立派な意見をお持ちなんですよねぇ? 夏色 うっ……。 七海 (小声)恵ちゃん、いつになく言葉に棘がありません? 江間 (小声)あの意見を否定されたことが気に入らなかったんじゃないだろうか? 七海 (小声)それだけで?それじゃあ、あの子まるで、 江間 (小声)そうだな、まるで腐女、 恵  そこ!腐ってる言わない! 江七 は、はい!すみません! 恵  さあ、夏色君、意見、出して下さい。 夏色 あ、ああ、うん。そうだなあ……こういうのはどうだ?ベタに、バンドなんてのは? 三人 バンド? 夏色 ああ、文化祭の一般参加と言えば、やっぱりバンドだろう? 江間 ふむ、なかなかいい考えだな。 七海 新しい意見ですね? 夏色 おい。何故こんな単純な意見が今まで出て来なかったんだよ。 恵  単純過ぎて考えが及びませんでした。さすが夏色くん。やっぱり、学校一の地味人間の言うことは違いますねぇ。ナイス普通。ビバ普通。最高普通。イエス普通。 夏色 あれ?いい意見を言ったはずなのに、斐川の言葉の棘が、胸にズブズブ突き刺さってくるよぉ。 江間 それは気のせいだと言っているだろう?最高の褒め言葉だ。 夏色 聞こえなーい。そんな風に全然聞こえなーい。 七海 それは置いておいて、 夏色 こら、そこら辺に置くな。重要な問題だぞ。 七海 みなさん、楽器出来るんですか? 夏色 まあ、ギターくらいなら少しは。 恵  一応……。 江間 愚問だな。 七海 じゃあ、一度やってみましょう? 江間 うむ。      ギターを持った四人が一列に並ぶ。      ギターを鳴らす。      少し弾いたところで、 夏色 やめーい!何なんだよ、ギターだけのバンドって。成立しねーよ! 江間 私はギターしか弾けん。 七海 あたしもですー? 恵  あの、私も。 夏色 オレもだよ! 江間 ……ん?待てよ……私はもう一つ、出来る楽器があるぞ。 七海 あ、あたしもです? 恵  そ、そう言えば、私も。 夏色 何だよ、それなら最初からやれよ。 江間 それでは、ギターしか出来ない夏色君以外、楽器を持ち替えて再演奏だ。 夏色 おい、何かまた言葉に棘があるぞ。      楽器を持った全員が一直線に並ぶ。      楽器は夏色・ギター。      江間、七海、恵はそれぞれカスタネット、タンバリン、シンバル等の打楽器。      演奏を夏色が始めると、それに合わせて三人が打楽器を鳴らす。      少し演奏して、 夏色 やめーい! 江間 今度はなんだね? 夏色 あれ?何でオレ、皆に不快な眼で見られないといけないの?おかしいよね?絶対おかしいよね?この状況も、このバンドも。 江間 今度は何がおかしいのかね? 夏色 その眼ヤメロっての。……ああ、何かムカついてきたな。言ってやるよ、思いっきり。お前ら、何で全員打楽器なんだ! 三人 ギター以外にこれしかできないから。 夏色 計ったようにハモるな! 七海 夏色君、リーダーといえどわがままはいけませんよ?皆、ギターしか出来ない夏色君に合わせてあげているんだから。 夏色 ぐぅ……。 恵  自分から言い出しておいて、否定ばかりというのはどうでしょう? 夏色 くそぉ、こいつらムカつくー!ヤメだ!やっぱりバンド却下!他のにしよう! 江間 他とは? 夏色 例えば……。 三人 例えば? 夏色 ダンス!ダンスなんてどうだ?これも割とよくあるだろ? 江間 なるほど。またもいい意見だ。だが、一口にダンスといっても色々あるぞ。どういったダンスにするんだ?ブレイクダンスなんかはムリだぞ。 夏色 わかってるよ。最初からそんな高尚なもん期待してねーよ。さて、どうしたもんかね……。 江間 ソーラン節なら踊れるぞ。 夏色 小学生の発表会じゃねーんだぞ。 七海 サンバなんかどうでしょう? 夏色 何故?何故サンバをチョイスした!ステージ上で、しかも四人でやるもんじゃないよ! 恵 では、ここは逆にまったりと、フラダンスなんかどうでしょう? 夏色 誰が四人中三人が男のフラダンスなんか見に来るんだよ。 七海 夏色君、あたしは男じゃありません。 夏色 やかましい!ややこしいからお前は黙ってろ! 七海 そんな……ひどい……。 江間 そうなると、残りは社交ダンスしかないな。 夏色 何でそれしか残ってないんだよ!って言うか、それは見せもんじゃねえ! 江間 そうなのか? 夏色 うっ……そう言われると自信がないが、少なくても見てて夢中になるようなもんでもないだろ? 江間 確かに。 夏色 創作ダンスでいいんだよ。何か流行のノリがいい曲かけてさ、テンポ良く踊ってりゃ、それなりに見れるもんだぜ? 江間 なるほど。さっそくやってみよう。七海君、 七海 かしこまりました。      七海、音楽プレイヤーを持ってくる。 江間 とりあえず、各々即興で踊ってみよう。それでセンスがある者、・ない者を判別しよう。そのほうが後々楽だろうからな。      音楽プレイヤーを再生。 全員踊り出そうとするが、あまりにイメージしていた曲と違うため、夏色はずっこける。      他三人は奇妙な踊りを始める。      しばらくして、 夏色 やめーい! 三人 ! 夏色 何?その選曲!何?そのふしぎなおどり!マジックパワーがガンガン吸い取られるわ! 三人 何かおかしなところでも? 夏色 だあああぁぁぁ!またこの展開かぁっ!もういい!ダンスも却下!次行くぞ!次! 三人 次とは? 夏色 うっ、 三人 次とは? 夏色 ……。 三人 次とは? 夏色 ……!演劇!演劇なんてどうだ?音楽やらダンスと違って、センスがなくても毎日みっちり稽古すりゃ、何とかなるんじゃないのか? 江間 なるほど、確かにそれは一理あるな。 七海 演技なら任せて下さい?当然、あたしがヒロインですよね? 夏色 んなわけねーだろ。女装は禁止。お前は男役。 七海 どうして?こんなにかわいいのに! 夏色 中途半端なんだよ、お前の女装は!どう見てもオカマにしか見えねーんだよ!声も低いし! 七海 声が低い?だったら、      七海、どこからかスプレーを持って来て吸う。 七海 これでどうです? 夏色 ヘリウム吸うな!余計気持ち悪い! 七海 そんな……。 恵  わ、私は恥ずかしいです。女優なんてぇ……。 夏色 大丈夫。あのふしぎなおどりが踊れれば、怖いものなんてないさ。 恵  ? どういう意味ですぅ? 夏色 さあ、江間。さっさと申請書書いて提出するぞー。 江間 待て、夏色君。あの悪魔のことだ、演劇と書くだけでは、また目の前で破り捨てられるのがオチだぞ? 夏色 目の前で破り捨てられたことがあるのかよ。 江間 ダンスと同じで、演劇も色々あるだろう?どんな劇をするか明記しないと、却下は必至だぞ。 夏色 確かに。おーい、集合!演劇の内容決めるぞー。      暗転。           5      明転。      七海、恵の二人が神妙な面持ちで部室にいる。      そこに夏色と江間が入ってくる。 七恵 ! どうでした?      夏色・江間、ガッツポーズ。 七海・恵 ほ、本当ですか? 夏色 ああ。 江間 勝利だ。ついに我々が、あの憎き生徒会に勝利したのだ。またあの悪魔が何やらいちゃもんを付けてきたが、何のことはない、私の華麗なる論法で蹴散らしてくれたわ!はーっはっはっはっ!無力!なぁんと無力なことだ生徒会!生徒会の権力など、私の前では塵芥に等しいわぁ!はーっはっはっはっ! 恵 江間君、どうしちゃったんですか? 夏色 どうやら、嬉しさの余り壊れてしまったようだ。 江間 はーっはっはっはっ!今まで散々コケにしてくれたなぁ!これからどう料理してくれようかぁ?刻もうか?吊るそうか?晒そうか?縛ろうか?嬲ろうかぁ?ありとあらゆる手を使って、貴様らを地獄の底に突き落としてやるう!ハア、ハア、考えただけでも涎が止まらんなぁ……。ひーっひっひっひっ! 恵  ひぃ、江間君が黒いですぅ。 夏色 いつもだろ。 七海 でも、今回はいつもの五割増し危険な香りがするんですけど。 夏色 否定はできん。 恵  じゃあ、止めて下さいよぉ。怖いですぅ。 夏色 嫌だ。 恵  何故? 夏色 オレの本能が奴に近づくな、と言っている。 恵  そこを何とかぁ。 夏色 そこまで言うなら、やってやらないこともないが、 恵  本当ですかぁ? 夏色 ただし、条件がある。 恵  な、何ですぅ。 夏色 そこのオカマの身ぐるみを剥げ。 七恵 え? 夏色 普通の格好にしてやるんだ。 七海 な、何故? 夏色 眼に毒だから。 七海 ヒドーイ! 恵  ラジャ! 七海 えええぇぇぇ!恵ちゃんだけは理解してくれていると思っていたのに! 恵  一海ちゃん、友情とは、時として薄情なものなのです。 七海 そ、そんなぁ!      恵、七海の服を脱がしにかかる。 七海 きゃー!やめてぇ!脱がさないでぇ!いや、そこ!だめぇー! 夏色 ふ、ふははははは!脱がせぇ!脱がしてしまえぇ!ふははははは! 恵  大人しくして下さい、すぐに済みますからねぇ。 七海 ちょっ、恵ちゃん?何で楽しそうなんですか! 恵  楽しい?まさか、そんなわけ、ないではあーりませんか。ふははははは! 七海 ほら!やっぱりおかしい!笑い方が夏色君みたいです! 夏恵 ふははははは!      そんな折、突然梨果がドアを開ける。 梨果 朝倉君いる?さっきの申請書、一ヵ所誤字が……。 四人 ……。      梨果、中の惨状を見、速やかにドアを閉める。 四人 ……。 梨果 ふう。最近、疲れているみたいね。 夏色 待てぇ!杜前、待てぇ! 梨果 あら、どうしたの?朝倉君。 夏色 今、何か見えたか? 梨果 いえ、何も見てないわ。 夏色 おい、眼が泳いでるぞ。 梨果 何も見てないわ。 夏色 違うから!ここでの笑顔は何か違うから! 梨果 私ハ、何モ見テオリマセン。 夏色 何故に敬語?何故に片言? 梨果 (微笑して)心配しなくてもいいわ。他言する気はないから。      梨果、去っていくが、最後に一言、 梨果 朝倉君、そういう世界があっても、あたしはいいと思うわ。 夏色 うわあああぁぁぁ!ちょっと待てぇぇぇ!変な誤解をするなぁ!      梨果、去る。      夏色、部室に戻り、 夏色 はあ。……過ぎたことを後悔しても始まらない。よし、さっそく練習始めるぞ! 三人 おー! 音羽 待てええええい! 四人 !           6 音羽 もう自分達が第二体育館を使うつもりでいるのか?      マーケット・フルーツ登場。 夏色 誰? 音羽 な!?俺達を知らんだとぉ!? 泉  な、何て事なの!?そんな、そんなそんなそんな…… 美作 大丈夫さ、泉ちゃん。彼らは知らないふりをしているだけさ。 泉  え?でも、何でわざわざそんなことを……? 美作 それは、彼らが僕達、主に僕の美しさに嫉妬しているからさ! 泉  え、ええええええ……! 音羽 な、何だとぉ!貴様ら、卑怯だぞ! 夏色 いや、何が!? 恵  変な人達がいますぅ。 七海 恵ちゃん、何気に一番酷いよ、その反応。 江間 まあ、彼らが何者かなんてどうでもいい話だ。とりあえず確定しているのは、邪魔だということだ。さあ、帰れ。 音羽 あ、それはどうもすみませんでした。お邪魔して申し訳ありません。 七海 いえいえ、お構いもせずに、 音羽 って、アホかぁ!何だこのコントは! 江間 え〜?もういいじゃん。ていうか、帰れ! 音羽 ぞんざい過ぎだろ! 泉  邪魔。邪魔、邪魔じゃまじゃまじゃま…… 美作 おいおい、嫉妬はそれくらいにしておかないと、みっともないぜ。 恵  うわあ、ウザい人がいますぅ。 七海 こらっ!恵ちゃん! 泉  ウザい。ウザい、うざいうざいうざい…… 美作 ああ、嫉妬が気持ちいいぃ〜。えくすたすぃ〜。 恵  キモイですぅ。 七海 それには、同意です。 泉  キモイ。キモイ、きもいきもいきもい…… 美作 ああ、僕の美しさへの嫉妬がとどまることを知らない。僕の瞳に、カンパイ☆ 夏色 はい、スト〜ップ。茶番はそこまで。 泉  茶番。茶番、ちゃばんちゃばんちゃばん…… 夏色 で、お前ら、結局何しに来たんだよ? 音羽 その言葉を待っていたー! 夏色 うおっ! MF 勝負だ!チケット・フリー! 夏色 何が!? 音羽 だから、勝負だぁ! 夏色 だから、何のだぁ! 音羽 熱いビートを、奏でる勝負だ。 美作 美の旋律を、振り撒く勝負だよ。 泉  黒い怨念を、呼びだす勝負です。 夏色 いや、わかんねえから!っていうか、最後の怖ぇよ!? 泉  うっふん(無表情・棒読み)。 夏色 いやいやいや、何がしたいんだよ。 江間 待て、夏色君。詳しく話を聞こうではないか。 夏色 いや、こいつら、話が通じないんだけど…… 江間 まあ、待て。誠意を持って話せば、どんな相手とも心は通じるものだ。さあ、 音羽 第二体育館は俺達を待っている! 美作 今こそ、飛翔の時! 泉  悪魔の宴が始まる…… 江間 夏色君、殴っていいかい? 夏色 待て待て待て待てー!全然心通じてねえぞ! 江間 誠意なんて、ただの言葉だよ。 夏色 おい! 恵  ええ〜っと、どうも彼ら、第二体育館の使用権が欲しいみたいですよ。で、それをかけて勝負したいって言ってるみたいです。 七海 え? 恵  ちなみに、音楽系の団体みたいですよ。 夏色 何でわかんだよ? 恵  誠意です? 夏色 ……。 江間 ……。 音羽 ということで、第二体育館の使用権をかけて、俺達マーケット・フルーツと勝負だ! TF 嫌だ(です)? MF 何故!? 七海 何故も何も、第二体育館の使用権はあたし達にありますし〜? 恵  ですよね〜。 江間 大体、団体名が気に入らん。マーケット・フルーツだと?完全に我らのパクリではないか。ていうか、ダサいぞ。 美作 だ、ダサい……!(うなだれる) 音羽 ひ、ひ、ひ、卑怯者ぉ! TF ! 音羽 貴様ら、生徒会の軍門に下ったのかぁ! TF はい? 音羽 生徒会など関係ない!俺達のルールは俺達が決める!そうだろう? TF せいとかいばんざ〜い。 音羽 何ぃ!? 恵  生徒会最高〜。 七海 素敵〜。 江間 かっこいい〜。 夏色 数日前まで悪魔とか言ってなかったか? 江間 気のせいだ。 音羽 このままじゃらちがあかん!実力行使だ!行くぞ! MF おう!      MF、舞台中央に立つ。すると、どこからともなく音楽が。 夏色 うわっ、何だ?この音楽。 音羽 フォー!      MF、激しく動き出す。      よく見ると、エアギター、エアドラム、エアベースである。 夏色 何じゃそりゃあ!      歌詞が流れ出す。 夏色 って、ボーカルもエアかよ!      演奏終了。 夏色 はい、かいさ〜ん! 音羽 待て〜い!      暗転。           7      明転。      夏色・江間・七海、舞台上に立っている。 夏色 江間……。 江間 夏色……。      寄り添う二人、唇が近付いて…… 七海 夏色君! 夏江 か、一海……。 七海 どうして?どうしてそんな奴のところに?どうして、僕じゃ駄目なんだ? 夏色 もう、無理なんだよ。今まで自分に嘘を吐いてきたけど、オレ、オカマじゃ満足できねーんだよ!そんな、男だか女だかわかんねーようなオカマじゃ、満足できねーんだよ!オレ、男じゃないと、駄目なんだよ! 七海 な、夏色君……。 江間 ま、そういうことだから、ごめんな。俺達、これから、花園に行ってくるから。 七海 こ、この、泥棒猫! 江間 泥棒猫?そりゃあ、女に使う名称だろう?俺、オ・ト・コ!だから。わけわかんねえオカマとはちげーから。わかる?ヲ・ト・コ!夏色に好かれるヲ・ト・コ!だから。 夏色 おいおい、江間、そのくらいにしとけよ。な? 江間 うん、夏色がそう言うなら?      二人、去ろうとする。その時、 七海 待って! 夏色 ? 七海 あたし、変わるから。夏色君好みのゴッリゴリの男に変わるから。だから、待ってて。筋肉質のホモセクシャルになって迎えに行くから、待ってて!      夏色、立ち去りながら、 夏色 ふっ、楽しみにしてるぜ。      夏色・江間、去ろうとする。が、 夏色 って、何やってんの?オレ達!?明日本番だよ?こんなくだらないことやってる場合じゃないよ!? 江間 息抜き程度にやってみたが、面白いじゃないか、恵君の台本。 恵  でしょ?じゃ、続きを、 夏色 やらねーよ?こっから先は、舞台上でやっちゃいけないことしか書いてないだろ! 恵  そんなことないですよ? 夏色 いいから!さっさと練習に戻る!      TF、移動。 夏色 シーン24!もう一回頭から!行くぞ!(手を叩き、Q出し)      照明が変わる。 七海 バカ野郎!      七海、江間を殴る。 七海 お前、今何て言った!? 江間 何度でも言ってやるよ!(夏色・恵を指し)こんな奴ら、助けなきゃよかった!      七海、江間を殴る。 七海 本気で言ってるのか? 江間 ああ、本気だよ!こいつらさえ助けなきゃ、俺は今でもスター選手だったんだ!チャンピオンだって、夢じゃなかったんだ!      七海、江間を殴る。 七海 甘えてんじゃねえよ!お前が選んだことだろうが! 江間 うるせえ!      七海、江間を殴る。 七海 一般人殴れば、免許剥奪。わかってて殴ったんだろう?わかってて助けたんだろう?違うのか?なあ、元プロボクサー!      間。 江間 ……わかってたよ。わかってたけど!覚悟もしてたけど!けど、無理だよ……!ニュースでは悪人扱いされるし、人の見る目も変わった!あんなにいた友達も、一人もいなくなっちまった……。 七海 ……そうか? 江間 そうだよ! 七海 (夏色・恵を指し)じゃあ、あいつらは何だよ? 夏恵 ! 江間 ……。 七海 友達じゃ、ないのかよ? 江間 ふ、ふざけるな!何であんな奴ら!あいつらの、あいつらのせいで俺は!何もかも失くしたんだぞ!それに、 七海 友達じゃないのかよ!? 江間 ! 七海 世間がお前をどう言おうと!どれだけお前から友人が離れていこうと!ずっとお前の側にいたこいつらは!友達じゃ、ないのかよ? 江間 ……。      恵、走って江間に近づく。 恵  ごめんなさい。ごめんなさい、カケル君。私のせいで、私のせいで、      夏色、恵を支える。 夏色 すまない、カケル……!俺に、キョーコを助けられるだけの力があれば、こんなことには…… 江間 キョーコ、ハル……。 恵  ごめんなさい。ごめんなさい。私、酷い女だけど、カケル君に辛い思いさせるような、酷い女だけど、それでも!……それでも、一緒にいて、いいですか? 江間 ……      暗転。           8      明転。      部室に、帰る準備をしている夏色がいる。 夏色 江間の奴、遅いな。一体何してんだ?明日が本番だってのに。      夏色、部室内を見渡す。      何となく部室内を整理し始める。 夏色 明日、いよいよ本番かぁ。      夏色、台本を手に取り、 夏色 『TITLE』。著作『カルマ・K』。ったく、ふざけたペンネームだよなあ。      間。 夏色 「高校三年生にして、プロボクシングのA級ライセンスを取得した天才に降りかかる災難。ある日彼は、同級生の少女が暴漢に襲われそうになっているのを見かける。そこにいち早く飛び出したのは彼ではなく、これまた同級生の線の細い少年だった。しかし、そんな少年が敵うわけもなく、袋叩きにされていたところに、天才は降り立った。次々と暴漢をなぎ倒す天才。その時、彼は紛れもなくヒーローだった。が、数日後、プロボクサーながらに一般人を殴った彼は、ライセンスを剥奪される。その上、マスコミは彼を悪役に仕立て上げ、友人も彼から離れていく。そんな極限状態の中、彼は真実の友情に気付いていく」って、このあらすじは臭過ぎだよなぁ。      夏色、台本を置く。      間。 夏色 そう言えば、いつの間にか、ここに無理矢理連れて来られて二ヵ月近く経ってんだな。振り回されてばかりの毎日だったような気がするけど、色々あったなぁ。江間が暴走したり、七海が暴走したり、斐川が暴走したり……。その度周りに迷惑かけて、オレはいっつも謝ってたな。そして、その度オレはあいつらに文句言って、それでもあいつら、聞かなくて……。      間。      いつの間にか手が止まっている。 夏色 ホント、あいつら、バカだよなぁ。……でも、楽しかったな。高校生活で、ここまで楽しかったこと、なかったもんなぁ。いつからだろ?人の輪の中に入るのが面倒になったのは。他人に無関心になったのは。……ホント、三年間、何してたんだろ、オレ。      間。 夏色 ははは、一体何言ってんだ?な〜にガラにもなく、浸ってんだよ?似合わねえって。でも、二ヶ月間、本当に楽しかったな。何だかんだ言いながらも、毎日ここに来てたもんな。いつに間にか、ここに来るのが楽しくて仕方なくなってたな。ウザい江間がいて、キモい七海がいて、めんどい斐川がいて、五月蝿い杜前がたまにやって来る。そんなここが、愛おしくて仕方なくなってたな。そんな夢のような日々も、明日で最後か……。      部室に沈黙が訪れる。 その時、乱暴にドアが開く。 そこには、体中に紙を張り付けた斬次の姿。 夏色 あ、演劇部。こんな時間まで広報活動なんて気合い入ってるな。      夏色、斬次に近づく。      その時、斬次に突き飛ばされる。 夏色 な、何すんだよ? 斬次 ふみゃあ。 夏色 なっ!      斬次、包丁を取り出し、夏色に襲いかかる。 夏色 おい、冗談だろ?      もみ合いになり、夏色が追い詰められる。      その時、ノックの音が鳴る。 夏色・斬次 ! 梨果 誰かいないの? 夏色 も、杜前? 梨果 何だ、いるんじゃない。入るわよ。      梨果、ドアを開け、入って来る。 梨果 !      梨果が驚いた瞬間、斬次、梨果を突き飛ばして逃走。 梨果 (我に返って)あ、朝倉君!大丈夫? 夏色 あ、ああ。これといって、怪我はない。 梨果 何があったの?あれ、演劇部の着ぐるみよね? 夏色 ああ。急に入って来て、襲いかかって来たんだ。くそ、演劇部に怨まれるようなこと、した覚えねーぞ。 梨果 ……本当に、演劇部なのかしら? 夏色 え?どういうことだ? 梨果 着ぐるみの中身よ。あれ着て襲ったら、演劇部だってバレバレじゃない。文化祭の前日にそんな危険なマネする?バレたら間違いなく、明日ステージに立てなくなるのよ? 夏色 いや、しないだろうな。数ヵ月、明日のために準備してきたのに、わざわざ前日にそれを台無しにしてしまうようなことをするわけがない。 梨果 でしょ? 夏色 ちょっと待てよ、じゃあ、誰が? 梨果 わからないわ。自分に怨みを持っている人物に心当たりは? 夏色 ねえよ。オレに怨み持ってる人間なんて、この学校にいるわけない。 梨果 すごい自信ね。本当にそう言い切れる? 夏色 言い切れる。 梨果 本当?そうは言っても、人間、生きているだけでも他人から怨まれることだってあるわよ? 夏色 ああ、確かにそうだ。だが、オレに関してはありえない。オレはこの三年間、地味に生きてきた。誰に注目されることもなくだ。 梨果 は?一体、何言って、 夏色 人との関係も必要最低限にとどめてきた。そんなオレに、怨みを持つ人間なんているはずない。 梨果 そうは言っても、言っちゃ悪いけど、そういう人間が嫌いな人だっているわ。 夏色 ああ、いる。だけど、「嫌い」と言っても、その「嫌い」は、包丁持って襲うほどの「嫌い」か? 梨果 ……違うわね。もしそんな人間がいるとしたら、それは狂人でしょうね。でも、それじゃあ、誰が? 夏色 わかんねえ。だから悩んでんじゃん。      二人、考え込む。 夏色 あああぁぁぁ!わからん!オレ、高校生だしぃ、プロファイリングなんかできるか! 梨果 うるっさいわねえ。さっき襲われたくせに、何でそんなに平気なの? 夏色 ビビってても仕方ないだろ。あ、そういえば、今日は何の用があってここに来たんだ? 梨果 ああ、すっかり忘れてたわ。ちょっとした事件があってね、まだ学校に残ってる生徒に話を聞いて回ってたとこだったの。 夏色 事件?オレが襲われたのも事件っちゃ、事件だよな?重なるもんだな。 梨果 お気楽な感想、どうもありがとう。ん?あれ、何?プリント?しっかり管理しなさいよ。 夏色 あれ?      二人、床に落ちている紙に注目する。 夏色 いや、オレのじゃねーよ。そういえば、着ぐるみにいくつも貼ってあったな。もみ合ってる時に落ちたんじゃねーの?あの時は夢中だったからなぁ。 梨果 何て書いてあるの? 夏色 ちょっと待ってろ。何しろぐちゃぐちゃで、なっ……! 梨果 どうしたの? 夏色 ……「死ね」「消えろ」? 梨果 え? 夏色 「お前らなんか必要ない」「この世からいなくなってしまえ」「ゴミは掃除しなければ」「十三・十四日、ゴミ処理を行います」?何だこれ? 梨果 ……これよ。 夏色 これって、何が? 梨果 事件。 夏色 え? 梨果 こういった怪文書が、校内の至る所にばら撒かれてたのよ。悪質な悪戯でしょ?看過できない内容が書かれているから、あたし達生徒会と先生達が生徒に話を聞いて回っているの。 夏色 それと同じものがあの着ぐるみに貼ってあったってことは、その怪文書事件の犯人は、着ぐるみの中身の人間ってことか? 梨果 状況的に見て、その可能性は高いわね。 夏色 ん?ちょっと待て?ってことは、オレって、ゴミ? 梨果 間違った見方じゃないわね。 夏色 おい。 梨果 冗談よ。こんな病んだ文章読んでると、君でもいじってないと精神の安定を保っていられなさそうだもの。 夏色 じゃあ、オレはどうやって精神の安定を保てばいいんだ? 梨果 自分で考えれば? 夏色 冷たい! 梨果 しかし、被害者が出たとなると、事態はいよいよ深刻ね。 夏色 ! ちょっと待て! 梨果 どうしたの? 夏色 怪文書には、ゴミを掃除するって書いてあったな?ってことは、オレみたいな人間も危険じゃないか? 梨果 え? 夏色 オレと同じような人間、例えば……例えば、チケット・フリーのみんな! 梨果 た、確かに。 夏色 今校内に残っている団員は……江間!江間が危ない! 梨果 え? 夏色 江間!      夏色、部室を飛び出そうとする。      が、その瞬間、江間が入って来て鉢合わせになる。 江間 何だい? 夏色 うわあああぁぁぁ!びっくりしたあ! 江間 どうした?夏色君。妙にテンションが高いな。何かいいことでもあったか? 夏色 はあ、良かった。無事か。 江間 無事?どういうことだい? 梨果 あたしが説明するわ。 江間 杜前君?      スポットライトが梨果に集まる。      戻る。(もしくは暗転) 江間 なるほど。そんなことが……。夏色君、よく無事だったな。 夏色 ああ。杜前が入って来るのがあと少しでも遅かったらと思うと、ゾッとするな。 江間 ふむ、杜前君もたまにはいいことをするな。とりあえず、礼を言っておこう。 梨果 あんたは礼を言う時も、いちいち感に触るわね。 江間 そんなに褒めるな、照れるじゃないか。 梨果 褒めてないわ。勝手に照れてなさい。 江間 冗談はさて置き、これからどうすべきだろう?私や他の団員も狙われる可能性があるだろう?夏色君だって、二度と狙われないという保障はどこにもないだろう? 夏色 そうだな。 梨果 まさか、明日学校を休むわけにはいかないしね。 夏色 当たり前だ。何のために今まで苦労してきたと思ってんだよ?な?江間。 江間 ……。 夏色 ? 江間?おい、江間! 江間 ん?……ああ、そうだな。 夏色 そもそも、本当に明日、誰かが襲われるのか?大勢の人間の中で本当に可能なのか? 梨果 正直、可能とは思えないわね。でも、だからと言って、放ってはおけないでしょう? 夏色 ……。 江間 二ヵ月。 夏梨 ? 江間 二ヵ月だ。我々は二ヵ月、明日のために頑張ってきた。それを、こんなわけのわからん連中に邪魔されてたまるか。 梨果 二人とも、明日舞台に立つつもりなの? 夏江 当然だ。 梨果 何言ってるの?危険よ。 夏色 明日学校休むわけにはいかないって言ったのは、お前だろ? 梨果 言ったけど、言ったけど、そういう意味じゃないわよ。舞台に立てなんて言ってないでしょう? 夏色 だったら、どういう意味だよ? 梨果 先生に相談しましょう?何とかしてくれるわ。 夏色 それで、舞台に立てるのかよ? 梨果 それは……。 夏色 無理だよな? 梨果 ……。 夏色 江間! 江間 何だね? 夏色 やるぞぉ! 江間 おう!      二人、部室を出ようとする。 梨果 ちょっと待って! 夏色 ……頼む。 梨果 え? 夏色 教師達には、今日オレが襲われたこと、言わないでくれ。 梨果 朝倉君?何言って、 夏色 明日! 梨果 ! 夏色 明日、どうしても舞台に立ちたいんだ。だから、だから……頼む! 梨果 ……できないわ。 夏色 どうして!知ってるだろ?オレ達、明日のために、 梨果 知ってる! 夏色 ! 梨果 知ってるわよ。今回があなた達四人にとって、最初で最後の大舞台だってことも。 夏色 だったら、 梨果 でも! 夏色 ! 梨果 ……でも、無理よ。「ゴミ」って、あなた達四人だけを指してるって、言い切れる?他の誰かを指していないって、言い切れる?今回の件を隠蔽して、先生達の指示を仰がなかったために、あなた達以外の誰かに、何かあったらどうするの?朝倉君、君に責任が取れるの? 夏色 それは…… 梨果 無理でしょう? 夏色 ……取るよ。オレが責任取るよ。責任取るのが、責任者の仕事だろ? 梨果 それは、よく考えて出した答えなの? 夏色 え? 梨果 責任を取るって、どう責任を取るの? 夏色 それは…… 梨果 言っちゃ悪いけど、そのセリフ、酷く無責任よ。君のわがままよ。 夏色 ……そうだな。でも、 梨果 ……。 江間 どうにもならんのか、杜前君。 梨果 無理よ。 江間 夏色君のことを教師達に話してもいい。だが、どうにかして我々を舞台に立たせてはくれないだろうか? 梨果 無理よ。先生達に話した時点で、問答無用であなた達の舞台は中止にさせられるわ。 江間 そうか。それでは仕方ないな。 夏色 え? 江間 夏色君、残念だが、ここは涙を呑んで退こう。 夏色 な、何言ってんだよ? 江間 他人を巻き込むことだけはしてはならない。そうだろう? 夏色 おい、何言ってんだよ?らしくねーぞ。なあ!江間! 江間 仕方がないんだ。……私はもう帰るよ。夏色君、君は? 夏色 か、帰れるわけないだろ?こんな状況で! 江間 そうか、ならば気を付けて帰ってくれ。 夏色 お、おい!江間ぁ!      江間、部室を去る。 夏色 お、おい!江間!待てよ! 梨果 朝倉君……。 夏色 ……くそ。 梨果 ……朝倉君、話があるの。 夏色 え? 梨果 明日、舞台に立つ方法よ。      暗転。           9      明転。      部室に夏色と梨果がいる。 夏色 成程、考えたな。一晩中見張って、犯人を捕まえるのか。 梨果 ええ。犯人の目的は標的を襲うことだけじゃないはずよ。怪文書をばら撒いたことからもわかるように、一種の見せしめも目的の一つだと思うの。ただ目立ちたいだけ、って可能性も捨て切れないけどね。どちらにしても、あの怪文書を大勢に見せるのも目的のはずよ。 夏色 成程な。それで? 梨果 だけど、怪文書は全て生徒会が処分したわ。それをもし、犯人が知ったなら、どうすると思う? 夏色 ……もう一度、怪文書をばら撒く。 梨果 かもしれないわ。だから、その可能性に賭けるの。犯人を捕まえられれば、脅威はなくなるわ。犯人が単独犯ではなく、グループで動いていても、一人でも捕まえれば、芋蔓式に犯人グループを捕まえることができるわ。もし、それが実現すれば、 夏色 舞台に立てる! 梨果 その通り。だけど、確実じゃないし、危険だわ。 夏色 危険は承知の内だ。 梨果 もし成功しなかったら、その時は諦めてね。先生の指示に、従って頂戴。 夏色 ……わかった。ありがとう、杜前。 梨果 やめてよ、気持ち悪い。 夏色 てめえ、オレの心からの感謝の言葉を……。 梨果 しー、誰か来たらどうするの! 夏色 この野郎……。      ドアの向こうから物音。 夏色 ! 誰か来た! 梨果 静かに!隠れて。      変装した三人組が入ってくる。      夏色、飛び出そうとする。 梨果 待って、まだよ。 夏色 あからさまに怪しいじゃねーかよ。 梨果 今捕まえても、いくらでも言い逃れできるわ。お祭りムードに当てられた、ただのバカかもしれないし。 夏色 今何時だと思ってんだよ?朝四時だぞ?そういうバカは、まだベッドの中だ。 梨果 普通に考えたら、そうでしょうね。でも、もう少し待って。 夏色 でも、 梨果 動くのは、あいつらが行動を起こした後よ。 夏色 ……。      三人組、変装を解く。      すると、MFの三人である。      ずっこける夏色。 音羽 フォー! 美作 僕の美貌に、カンパイ♪ 泉  冥界の宴…… 夏色 あいつらかよ。 梨果 でも、何しにこんな時間に学校に……      音楽が鳴り出す。 音羽 行くぜ!行くぜ行くぜ行くぜー!!! 美作 美しく舞い踊れ! 泉  ラストステージ…… 夏色!      MF、エア演奏を始める。 梨果 これって…… 夏色 本番だ。これが、あいつらの本番なんだ…… 梨果 第二体育館が使えないから? 夏色 ああ、多分。五月蠅いからって理由で、音楽系のゲリラ演奏は禁止されてるんだろ? 梨果 う、うん。 夏色 だったら、間違いない。これが、あいつらの文化祭だ。      演奏終了。 音羽 サンキュー。      MF、退場。 梨果 去り際は、えらく静かだったわね。 夏色 そういう気分、なんだろうよ。色んな意味で。……なあ、杜前。 梨果 え?何? 夏色 もし、もし明日オレ達が、舞台に立てなかったら、あいつらを、ステージに立たせてやってくれ。 梨果 ……わかった。      少しの間の後、変装した男が入って来る。 梨果 ……まだよ。 夏色 ああ。      男、動き出す。 教室の中央に移動し、怪文書をばら撒く。 梨果 今よ!朝倉君! 夏色 あああああぁぁぁ!      夏色、男を押し倒す。 夏色 はあ、はあ、お前の、お前のせいでっ!      夏色、変装を暴く。      すると、そこには江間の顔が。 夏色 え?……江間? 江間 夏色……。      間。      二人、離れる。 夏色 ……な、何で、何でお前がここにいるんだよ。 江間 ……。 夏色 答えろよ、江間。 江間 ……。 夏色 なあ、江間ぁ! 江間 ……。 夏色 答えろ!江間架! 江間 ……君が、思ってる通りの理由だよ。俺が、犯人だからだよ。 夏色 江間……。 江間 大量の怪文書ばら撒いたのも、着ぐるみ被ってお前を襲ったのも、全部、俺だ。 夏色 そんな……。 江間 参ったよ、まさか捕まるとはな。この作戦、考えたのは君か?杜前。 梨果 ええ。 江間 俺達が犯人だってことには、気付いてた? 梨果 薄々ね。半信半疑だったけど。 江間 いつ気付いた? 梨果 気付いたというか、おかしいと思ったのは、昨日君が帰った後ね。舞台を中止せざるをえないって言った時、君があっさり引き下がったことに、違和感を感じたのよ。あれだけ、普段五月蝿かった君だけにね。朝倉君が言ってたでしょう?「お前らしくない」って。その通りね。無茶苦茶なことを言って、無茶を可能に変えようとするのが、いつもの君だからね。 江間 成程、最後の最後にしくじったな。完璧な演技だと思ったんだが。 夏色 待てよ。今……俺達って、言ったか? 江間 ああ、言ったな。 夏色 まさか…… 江間 ああ。七海も、恵も、共犯だ。 夏色 そんな……。全員で、オレを騙してたのか? 江間 そういうことになるな。 夏色 ……何でだ?何で、オレを団長にした。その方が、オレを狙い易いからか? 江間 違う。 夏色 じゃあ、何で! 梨果 隠れ蓑、ってとこかしらね。 江間 御明答。 夏色 隠れ、蓑? 梨果 君は本来、ターゲット、「ゴミ」ではなかったのよ。だけど、「ゴミ」ばかりを狙えば、自ずと犯人は「ゴミ」に怨みのある人間に特定されるわ。三人はそうなることを恐れたんでしょうね。だから、全く関係のない君を襲った。君を団長にしたのは、君が襲われることで、自分達への容疑の眼を逸らしたかったからでしょうね。 江間 それだけじゃない。第一被害者を夏色にすることで、俺達三人を被害者候補である「ゴミ」だと思わせることも目的だった。この怪文書の内容から、昨日夏色が勘違いしたように。そうすることで、さらに俺達から容疑の眼は離れていくからな。 梨果 えらくタイミングがいいと思ってはいたけど、まさか見計らっていたの? 江間 ああ。俺達が「ゴミ」だという思い込みを印象付ける必要があったからな。だから、どちらかが言い出すまで待機していたんだ。 梨果 したたかね。 江間 夏色を団長にする前からの計画だからな。しくじるわけにはいかんさ。 梨果 二ヵ月以上前ってことか。 夏色 待てよ。オレが団長を引き受けなかったら、どうするつもりだったんだ? 江間 その場合は考えてないよ。君は絶対に引き受けるという自信があったからね。 夏色 何故だ? 江間 何度も言うように、君は学校一地味な生徒だ。他人に注目されることなどないし、顧みられること、頼られることだってない。そんな君だ。「君にしかできない」、「頼む」なんて言われたら、断ることなんてできないだろう?その心理を利用させてもらったんだよ。 夏色 お前っ……。 梨果 「ゴミ」っていうのは、どういう人達なの? 江間 簡単に言うと、いじめっ子さ。 梨果 いじめっ子? 江間 ああ、七海や恵を苛めていたやつらだ。地味な生徒っていうのは、えてして苛められやすい。そして、抵抗する術なんて持っていない。対して、いじめっ子はそれに味をしめて、苛めをエスカレートさせる。これには終わりなんてない。ただの無限地獄だ。俺はそれを終わらせたい。七海や恵を無限地獄から救い出したい。そのために、まず俺は、「ゴミ」共に罰を与えることにした。七海や恵が味わったような地獄を見せてやることにした。地獄へのチケットを無料でプレゼントしてやることにした。だから、俺達の名は、チケット・フリーなんだよ。 梨果 そんな……。 江間 校内に苛めがあったことすら初めて知ったって顔だな。おめでたいことだ。 梨果 だ、ダメよ!苛められたからって、暴力で解決するなんてよくないわ! 江間 はっ!笑えるな。そんな言葉が、俺達に届くと思っているのか?お前みたいな人間の言葉が、俺達のような人間の心に響くと思っているのか?何も知らないお前の言葉に、どんな力があるというんだ!      間。 江間 すまない。熱くなってしまった。君に当たっても仕方がないな。計画がふいになったことで、イライラしていたようだ。 梨果 ダメよ。暴力は……。 江間 ああ、そうだな。だが、人間、時には力を振るわなければいけない時もあるさ。心配せずとも、今回のことを教師に報告すれば、俺達は退学だ。 梨果 江間君……。 夏色 させねえ。 江間・梨果 ! 夏色 お前らを退学になんか、させねえ。 梨果 朝倉君?何言って、 江間 夏色、何を言っている? 夏色 言葉の通りだ。勝手に退学なんて、させねえよ。 江間 ……どういう心情でそんな戯言をぬかしているのか知らないが、杜前が教師に報告した時点で、俺達の退学は決定だよ。 夏色 オレは知らない。オレは、この事件のことは、何も知らない。 梨果 え? 江間 夏色? 夏色 オレは演劇部の着ぐるみになんか、襲われていない。こう言ったら、どうなる?オレがそう言い張れば、どうなる? 江間 夏色、どういうつもりだ? 夏色 見逃してやる、って言ってんだ。オレを襲ったことは、なかったことにしてやる。 江間 な、何を言っている!お前、オレに殺されかけたんだぞ!それなのに、 夏色 そのかわり!もう、馬鹿なことは考えるな。「ゴミ」掃除なんて、やめろ。 江間 ……無理だ。「ゴミ」がいる限り、七海と恵は、 夏色 だったら!だったら、何で、正々堂々、正面から戦わないんだよ! 江間 殴り合えと言うのか?ふざけるな!そんなこと、できたらこんな苦労はしていない。 夏色 はあ……。ヤダねヤダね〜、暴力的な男。そんなだから、リカちゃんにいつまでも振り向いてもらえないんだよ。や〜い、ストーカー。お、何だ?怒ったか?言いたいことあるなら、言ってみろよ。 梨果 りかちゃん? 江間 心配するな、君のことでは、断じてない。 梨果 あんたねぇ…… 夏色 ほ〜らほら、何か言ってみろよ。なあ、江間。 江間 じゃあ、どうしろと言うんだ……!どうすればいいと言うんだ。 夏色 甘えるな。自分で考えてみやがれ。      間。 夏色 はあ……。全く、今度は黙り込みか?いつもは黙れっつっても喋り続けるくせに。 江間 だから、あれは演技なんだよ……。本当の俺は、 夏色 そう。本当のお前は、ただの根暗なストーカーだ。 江間 だから、それも演技、 夏色 だからダメなんだよ。 江間 ! 夏色 いっつもいつも、ウジウジウジウジ考えてるから、ネガティブなアイディアしか浮かんでこないんだよ。……オレも、そうだった。 江間 夏色? 夏色 最近まで、オレもそうだった。いつもウジウジして、後ろ向きなことばかり考えていた。でも、最近少しだけ変われたよ。……きっと、お前達のお陰だよ。 江間 ……。 梨果 朝倉君、最近変わったわ。そりゃあ、地味で普通っていう印象は変わらないけど、 夏色 おい。 梨果 前みたいに、無関心でも、無気力でもなくなったわ。少しずつだけど、変わってきてる。朝倉君が言う通り、きっと江間君達のお陰よ。 夏色 お前らは、人を変えられるんだよ。それだけの魅力を、三人とも持ってんだよ。だから、「ゴミ」掃除なんかする必要ないんだ。きっかけさえあれば、きっと、上手くいくさ。 江間 簡単にいいやがって……! 夏色 そりゃあ、劇的に変化するはずないさ。でも、いいじゃないか。少しずつ変えていこう。 江間 お前に何がわかる! 夏色 わかんねえよ!お前らが考えてることなんか、わかんねえよ!だから、だからお前らに騙されたんじゃないか! 江間 夏色……。 夏色 でも、一つだけわかることがある。 江間 何だ? 夏色 「ゴミ」掃除なんかしても、苛めはなくならないってことだ。 江間 何だと? 夏色 そんな復讐まがいなことやっても、何も変わんねえよ。相手が回復したら、そいつらはまた、七海や斐川を苛めるぞ。それで、何が変わるって言うんだよ!お前らがやろうとしていることは、ただの復讐なんだよ!それでいいのか?答えろ、江間!      間。 夏色 お前らはどうなんだ!いつまでも江間の影に隠れてないで出て来い!七海!斐川! 梨果 え?      七海、恵が入って来る。七海は女装ではない。 七海 夏色君……。 恵  ご、ごめんなさい……。 夏色 謝らなくていい。答えろ。お前らはそれでいいのか? 七海 僕は…… 江間 七海? 七海 僕は、嫌だ。 江間 七海、何を言って、 七海 ずっと、悩んでたんだ。これでいいのかって。そして、そのまま今日を迎えてしまった。今、僕は後悔している。夏色君の言う通りだ。これは復讐だ。こんなこと、正しいわけない。夏色君を利用してまで、やっていいわけなかったんだよ! 江間 七海……。 恵  私も……。 江間 恵? 恵  私も、嫌です。嫌だよ、江間君……。 江間 恵……。 夏色 二人とも、嫌なんだな?      二人、頷く。 夏色 だったら、これからどうしたい?いつまでも江間に頼るんじゃなく、自分たちがどうしたいか江間に言ってみろよ。 七海 僕は、もうやめたい。夏色君に謝って、今まで通り、くだらないことで笑って、泣いて、楽しい日々を過ごしたい。 恵  私も、もうやめたい。私を苛めた人に復讐するより、新しくできた友達を大事にしたい。 夏色 七海、斐川。 江間 じゃあ、俺はどうしたらいいんだ?俺は今まで、二人のためと思って、ずっと……。 夏色 だったら、今回も二人のためになると思う方を選べよ。 江間 ……わかってる、わかってるんだ。こんなこと、やめた方がいいってことは。でも、今やめたら、結局何も変わらない。それじゃあ、だめなんだ。俺は、どうしたらいいんだ? 夏色 そんなの、簡単じゃないか。周りの見る目が変わって、さらにはオレ達の仲も元通り。そんな素晴らしい一手があるぞ。 江間 ……何だ? 夏色 やるんだよ。チケット・フリー最初で最後の公演を!      暗転。           10      明転。      夏色と梨果が教室にいる。 梨果 これで良かったのかしらね? 夏色 わかんね。どうなんだろなー。 梨果 無責任な。 夏色 でも、最悪の事態にゃなんなかったろ? 梨果 そうだけど。 夏色 江間のためにもなったろうしな。 梨果 え? 夏色 あいつ、多分昔苛められてたんだよ。だから、あいつらを助けたかったんだろうと思う。 梨果 でもそれって、 夏色 ああ、いいことばかりじゃないさ。昔の自分に重ねてたって言えば聞こえはいいんだが、あいつは解決策に復讐を選んだ。それはつまり、あいつは過去に復讐をしたいってことだ。もしくはしたのかもしれないけど。ま、どっちにしても、それだけ暗い過去を抱えてるってことだ。 梨果 それを少しでも和らげるために、平和的に解決したってこと? 夏色 オレはそんなに計算高くもなければ、偉くもねーよ。そんなんじゃ、ねーよ。 梨果 じゃあ、何? 夏色 ……この台本。 梨果 え?      夏色、『TITLE』の台本を梨果に渡す。 夏色 作者名見てみろ。 梨果 「カルマ・K」? 夏色 並び変えたら、「えまかける」だろ?その台本、多分江間が書いたんだよ。 梨果 嘘ぉ!? 夏色 多分、本当だ。だから、その台本はあいつの分身なんだ。あいつが言いたいことは、全部それに書いてある。 梨果 へえ……。で、江間君は何て言いたいの? 夏色 んなもん、自分で読んで考えろ。 梨果 えー?ケチ。 夏色 ケチで結構。……二ヶ月間、この台本と睨めっこしてきたから、わかったんだよ。江間の言いたいことも、オレがやるべきことも……。今回はたまたま、オレと江間が欲しいものが、被ってた。ただ、それだけだ。 梨果 ……朝倉君、変わったね。 夏色 そうか?      暗転。      明転。      団員四人が部室にいる。 恵 う〜、出番はまだですかぁ? 江間 ほう?恵君、それだと出番が待ち遠しいと言っているようだぞ?頼もしいな。 恵 違いますよぉ。 夏色 七海、いつまで化粧してんだよ。 七海 化粧は女の命です。 夏色 お前は男だろ。どうせ化粧しても変わんねーよ。 七海 あー、ひどーい。 夏色 キモいから喋るな。 七海 うぅ……。 音羽 全く、相変わらず騒がしいな。      MF登場。 夏色 音羽!? 江間 君たちにだけは、騒がしいなどとは言われたくないな。 音羽 ふん。まあ、いい。今日は、お前たちに言いたいことがあって来た。 夏色 何だ?改まって。 音羽 熱いビートを、 美作 美の旋律を、 泉  死の絶叫を、 MF 奏でてこい! 夏色 言われなくても、そのつもりだっての。 江間 さあ、出番前に簡単な出陣式でもやろうか? 夏色 お、いいね。どうするんだ?やっぱり円陣でも組むのか? 江間 いや、これだ!      江間、いきなり服をはだけさせる。 夏色 何してんだてめぇ!この変態! 江間 褒めるな褒めるな。 夏色 褒めてねえ! 江間 さあ、私の体に願いを書くがいい! 夏色 はあ?つーか、そこの二人!指示通りに書き始めるな! 七海 あ、ペンならありますよ。 夏色 そんなことは聞いてねえ! 恵 江間君の肌、スベスベですぅ。 夏色 そこ!うっとりしない! 江間 あ、あうぅ。あっ、そこっ! 夏色 気持ち悪い声出すな! 江間 夏色君、私の名前は? 夏色 江間架。 江間 そう!私の名は江間架!絵馬を掛ける。だ! 夏色 絵馬って、あの神社とかにある、アレか? 江間 そうだ。縁起がいいだろう?さあ、君も書いてみろ。 夏色 仕方ねえなぁ。 江間 あっ。 夏色 変な声出すなって! 江間 あっ、ううん……。 夏色 あー、もう!締まらねえなぁ!やっぱり円陣だ!さあ、円陣組め! 三人 えぇ〜。 夏色 文句言わない!      四人、円陣を組む。が、四人のため、ひし形でしかない。 江間 これが円陣かね? 夏色 文句言うな!……行くぞぉ! 三人 おお!      暗転。 四人 チケット・フリー!                                       完。